東男に京女

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久々に地球にやって来たら懐かしい夢を見た。

「――白夜叉」
「あ?」

鉛色の空の下。屍だらけの血濡れた大地の上。

あの日、私は戦場を駆け回る白いアイツの背に声をかけた。振り向いたその顔には返り血を浴びていて、折角の綺麗な髪が台無しだなと素直にそう思って笑った。

「…おい…!」

不意に私が名前を呼んだのが珍しかったのか、眉間にシワを寄せたアイツは此方へ向かって手を伸ばしてきた。

「死ぬなよ」

そうアイツに伝えると、私はアイツの手から逃げるようにして人間と天人がごった返す戦場へと駆け出した。

今となってはアイツが生きているのか、はたまた死んでいるのかは分からない。
今更それを知ろうにも知る手段もない。生きていたらそれはそれで良い、というくらいでいる。




「ッアァァァァ!!そこの人ォオ!避けてェェエエ!」
「!」

江戸かぶき町、と呼ばれる場所を散策していたところ、後ろから何かが駆けてくる足音と誰かの悲鳴に周りは慌てて走り逃げる。

避けてって…私?

「!」

振り向いた先には白い大きい獣とその傍らには一緒に走る人の姿。獣が暴走しているらしく、私はマントの下から袋に包まれたままの武器を取り出す。なんかこれは只事じゃなさそうだ。

「ぶは!?」
「クゥン!」

左手で獣の頭、右手で袋の中に入ったまんまの武器先を上手く使って一緒にやってきた人間の襟元を引っ掛けて受け止めた。結構本気で踏ん張ったつもりだけど、予想以上に向こうの方がスピードがあったらしく、少しだけ足元が滑った。取り敢えず周りを巻き込まなくて済んだみたいで、獣がもう暴れないか様子を見ながらゆっくり頭から手を離す。

「大丈夫ですか?」
「すいまっせェェエエん!!」

武器先にぶら下がっている人を見上げると、なんとまぁ可笑しな格好をしているもんだ。白い着流しに黒の洋服。おまけに腰には木刀ときたもんだ。この国は廃刀令があったはずなのに、まだ腰に得物をぶら下げる輩がいたとは。此方に背を向けていて顔は見えないが、チラリと見えたよくうねった白髪頭は昔の戦友を彷彿させた。

「…散歩のスピードは気をつけた方がいいですよ」

白髪の人間をゆっくり降ろしてやり、武器の袋を腰の定位置に戻しながらその人間が振り返るのを待ってみる。

昔の戦友に似た雰囲気を持つ男の顔が、なんとなく見たいと単純に思った。

「銀ちゃんー!定春ゥー!」

遠くから聞こえてきた女の子の声に白い獣が真っ先に反応し、走り出した。え、大丈夫か?

追いかけるべきか悩んで、もう一度白髪頭に視線を移したところ、私が白髪頭を見上げるよりも先に腕を掴まれる。掴まれた腕から視線をあげてみたら、夢で見た顔と目の前の顔が重なった。私の体は駆け出そうとする中途半端な体勢で固まった。

「……おまっ…!」
「…さ、…坂田…?」

こうして私はかつての戦友と再会することになった。



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