のべつ幕なし

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ウチの従業員、と簡潔に言われて目の前にいる子供2人の姿を見て私は眉間にシワを寄せた。

「いつの間にロリコンに目覚めたの坂田くん。ちょ、教えてよ。いつから?いつから目覚めたの?あー、アレ?あのとき?そっかぁー、なんかフラグあったもんねぇ…」
「違ェわボケェェエエ!!いつの話だよ!!そんで目覚めた定で話進めるのやめれェエエ!」
「やだ銀ちゃんったら。私のことそんな風に見てたアルか。だから添い寝だの連れゴミだの…」
「オメーもいつの話してんだよ!!連れゴミってなんだよ!夜中にジャンプ回収しにいった話か!?つーか添い寝した覚えねェし話ややこしくなるからオメーは黙ってろ!!」
「はァー…大人気ないですよ銀さん。実際こうして一緒に住んでることが答えになっちゃってます」
「そこは止めるところだよね新八くん!?ウチで君が一番常識人じゃなかったけェェエエ!?君たち出会ってまだ1分も経ってないけど何その連携感!?」

2話目が始まってから早々に雪崩れ込むボケを華麗にかっ捌いてくれたこの目の前の男はかつて攘夷戦争で白夜叉と畏れられていた坂田銀時。年は知らん。多分年上。

江戸のかぶき町というところにやってきて早2日。とある場所を探して町を彷徨いていたところ、人1人を巻き込んだ白い獣が突進して来て。よく分かんないけども取り敢えず力技で押さえ込んで、巻き込まれた人を助けてみたら、武器で引っ掛けた先にぶら下がっていたそれは偶然にも戦時中に知り合った坂田であって。とやかく色々あって彼が営む万事屋銀ちゃんとかいうなんとも胡散臭い店へ訪れることになった。

「どこが胡散臭ェんだよ。もういっぺん表見てこい。看板どうみてもクリーンだろ。大体なお前、危ねェ店ほど看板ぶら下げてねェもんなんだよ。それに比べたらウチ税金納めてそうなクリーンな店にしか見えねェだろ」
「そう言う地点で薄々自分でも胡散臭い店だってことに気づいちゃってるよね?なに?税金納め忘れたりしたってこと?」
「ばっか、俺を誰だと思ってんだ。きっちりしっかり納めてるっつーの。確定申告なんざ毎年しっかり出してっから。もう役所の書類はお手のもんだし?」
「ねぇ、神楽ちゃんと新八くんはさ、お給料幾らなの?」
「む、それ聞いてくれるアルか」
「それがですね名前さん」
「ッァアアアア!!神楽ちゃん新八くん!!2人とも300円あげるから頼むからちょっと席外してくんねェエエ!?あ!思い出した!そうだ銀さん今からコイツと大事な話するんだったァァアア!」

従業員だって紹介されたまだ未成年であろう新八くんと神楽ちゃんにそう尋ねれば、坂田は焦ったようにして2人を引き寄せて手で口を覆った。

「あーもう取り敢えず良いよ。坂田が突然ロリコン野郎になろうが。もうこの際メンタル強くなっちまえ坂田くん。愛は世界を変えるしね」
「いや良かねェだろ。俺が良くねェからホント頼むからロリコンから脱却しといてくれねェ?ロリコンが世界救ったって俺が救われねェからね」

「お茶どうぞ」と新八くんが差し出してくれたお茶を熱いうちに頂く。坂田の隣から私の隣に座り直したのはこの万事屋の紅一点らしい神楽ちゃん。甚三紅色の髪に瑠璃紺色の瞳が特徴的でおまけに白い肌。

「名前は旅人か何かアルか?銀ちゃんの知り合いカ?」
「ん?まぁ、そんな感じ」

床に置かれた武器の入った袋や荷物、着ていたマントを見ればまぁ、そりゃそう思うだろう。

「銀ちゃんの元カノか何かネ?」
「ぶっ!?」
「あっちィな!!てか汚ェな!!」

突然ぶっ込んだこと聞かれて思わずお茶を吹き出したら目の前に座っていた坂田にぶっかかった。

「ちょ、何言ってんの神楽ちゃん…。私と坂田そんな仲に見える…!?」
「見えるネ!月9みたいな匂いがプンプンするアル!!」
「坂田アンタ何吹き込ませた?」
「今時はテレビ教育よ」
「子供は外で遊ばせるのが一番でしょーがバカタレ」
「勿体ぶってねェでさっさと教えロー!」

「ただのとーもーだーち!」とやけに食いかかる神楽ちゃんにそう宥めながら身支度を始める。流石にそろそろ行かないと怒られそうだ。

「取り敢えず私この後行くところあるから、また来るね」
「えーもう行くアルカー?」
「神楽…オメーなんかやけにコイツに懐いてんじゃねーの…?」
「なんか懐かしい匂い感じるネ!女の勘アル!」
「!」

腰を上げたところで神楽ちゃんのその発言に私は思わず一瞬固まった。そういえば…神楽って名前は…アイツの娘の名前と同じような…。私は神楽ちゃんをもう一度見た。瑠璃紺色の瞳と目が合う。

――そうか、なるほどね。

「また来るよ、神楽ちゃん。私ももうちょっとお話ししたいし」
「本当カ?約束アルヨ名前!」
「約束約束。ねえ坂田、いま暇?ちょっと道案内お願いできない?」
「は?なんで」
「これで手打ってよ」
「よーし任せなさい。神楽くん、俺は仕事行ってくるから店番頼んだ!」

地球で一番価値のあるお札を坂田の前にチラつかせると速攻で食いついてきた。金欠かよ。神楽ちゃんと新八くんに挨拶してから万事屋を出る。階段を降りながら坂田が一度こちらをチラリと盗み見た。

「なに」
「…元気にしてたかよ」
「そっちこそ。可愛い子宝に恵まれてて安心したよ」
「だからこさえた覚えねェつってんだろあんなガキ」

ボリボリと頭を掻きながら先に階段を降りる坂田の背を見下ろす。

昔に比べて少しだけ伸びた背。死んだ魚のような目。うねりにうねりまくった銀色の髪。白い着流し。日本刀の代わりに腰に居座るのは木刀。

「…変わったね、坂田」
「ん?なに?」
「…なんでも!」

うっかり呟いた私の声は坂田には聞こえていなかったようで、私は荷物を持ち直した。

「――で?どこ行きてェの?場合によっては原チャ出すけど」
「ここ行きたいんだけど」

懐から手紙を取り出し、同封されていた地図を取り出して坂田に見せた。

「…ここ屯所じゃねーかよ。無理無理俺こんなとこ知らねェし行きたくもねェわ。残念だがここでお別れだ名前くん達者でな」
「そうなの?じゃあ、此れは無かったことにさせてもらうわ」

再び二階に向かおうとする坂田の背に、先ほどの江戸で最も価値のあるお札をピラピラ振ってみたら奴は階段下の原付に足を進めた。


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