がべいに帰す
◼︎
「おやっさん、冷や1つちょーだい」
「おー、あんまり…いや名前ちゃんはザルだったな」
「失礼な!少しは酔うよ」
「お陰でいい金づるだぜ」なんて嬉しそうなおやっさんから冷酒を受け取り、一口含む。
地球に来てからというもの、日本酒の美味しさにすっかり虜になったもんだ。呑んだくれライフしてるように見えるけど、一応ちゃんと仕事してるからね。一応!!
私が座るカウンター席の真横のイスが音を鳴らす。
「お金は持ってきたんだよね?」
「なんで俺にだけそんなキビシーわけ?」
「前科持ちだから」
許可なく横に座る天パ野郎に目もくれずそう言い放ってみたら、枝豆の皿を取られた。仕方ないからもう一皿頼む。
「あいつらから聞いた。助けてくれたみてーじゃねェか」
「え?……あぁ、社長様が直々にお礼に来てくれたんだ?じゃあ、たっかいお酒の1つや2つ期待してもよろしくて?」
「ふざけんじゃねーぞテメー。ホッピー1つまでな」
「お前の方がふざけんなよ。ホッピー1つしか奢れないようなヤツがこんなところに来んな。自分の会計の心配しろ」
「あっはっは!相変わらず仲良いねェお二人さん」
「「良くない(ねェ)!!」」
声が揃った。
昔懐かしい感じの感覚に、私と坂田はどちらからともなく軽く笑って、おやっさんにホッピーを1つ頼んだ。
「うえっぷ…やっぱりお前とは…マジで二度と飲まねェ…うぷ…」
「アンタが勝手に来たんでしょ?情けないなぁ」
まぁ1時間後には見事にテーブルに突っぷす坂田の出来上がり。
「あー気持ちわりィ…俺ァ酒は金輪際飲まねェ…サケ、ダメ、ゼッタイ」
「白夜叉が聞いて呆れるよ全く…」
「銀さーん、もう店じまいなんだけど」
「だってよ坂田。出るよ」
「うっぷ」
なにこれデジャヴじゃん。いや、違うな、2度目か。
顔面蒼白な坂田に肩を貸して店を出る。近くの公園にあるベンチに座らせて、自販機で水を買って坂田に差し出す。
弱弱しく水に手を伸ばしてきた坂田が掴んだのは意外にも私の腕だった。不意打ちの行動に体が思わずこわばる。
だって、そこは、
「っ!」
「まァた…無茶したワケ?お前」
「…まぁ、大丈夫。夜兎の血があれば一晩で治る」
「…そーかよ。相変わらず可愛げねェ女」
「悪かったね、可愛げのかの字もないような女で」
酔ってんのか酔ってないのかよくわからない調子の坂田が腕から手を離した。
まさか見抜かれてたとは思わなかった。昼間に天人との戦いでちょっとヘマした方の腕に気づいたのか。平和ボケしてそうな暮らしをしてる割にはやたら良い観察眼はまだ現役らしい。
改めて坂田に水を握らせて、私も坂田の隣に腰掛けた。
「…あー……お前、さ…もう腹はいいのか?」
「はぁ?」
随分とコロコロ話の変わる男だなと思った。水を勢いよく飲んだかと思えば、腕の次はお腹?
直近で怪我した覚えもなくてコイツの考えに頭がついていけない。コイツ…思考回路もクルクルか?
「誰が思考回路がクルクルだ!!…うぷっ………庇ったろ、昔」
「あぁ、そんなこともあったね。すっかり塞がってるよ。ボンド飯のおかげでね」
「マジでか。食ってんのか」
「嘘に決まってるでしょ」
わざとらしい盛大なため息をついた坂田はガシガシと頭を掻く。
「…ったく、土手っ腹に穴開けてまで人のこと庇いやがって…神楽も出会ったときゃ腹に銃弾食らってたしよ…。夜兎ってェのはどいつもこいつも腹に穴開けるのが好きな馬鹿ばっかか?」
「開けたくて開けるやつがいたらぜひ教えてほしいね」
「…で?お前あの後どうやって生き延びた?」
あの後。
きっと勝手に坂田に別れを告げて走り去ったあの日のことだろう。「なんで勝手に行った」とも責められているような、そんな気もして少しだけ目を伏せる。
「どうもこうも…片っ端から敵を毛散らかしてたら気づいたら戦が終わってた。それだけ」
「ふーん」
「アンタもフラフラへらへら綿菓子とかケセランパサランみたいな感じだったのにしっかり根付いたようで何よりだよ」
「おいケセランパサランってなんのことだ俺のことか」
さて、ケセランパサランを家に送り届けるとするか。
PREV INDEX NEXT
top