陽炎、稲妻、水の月
◼︎
「手掛かりはなし、かぁ」
ちぇ、と小さく不貞腐れながらみたらし団子を一つ咥えた。江戸にやってきてから数日が経った。
今日は例の襲撃天人の駆逐仕事を終えたからか、久しぶりに地球に来て食べるからか分からないけど、やけにみたらし団子の甘さが身にしみた。
「おばちゃん、5人前追加でお願い」
「あらあらよく食べるお嬢さんね」
「その気になれば在庫分平らげるけどね」
「はいはい」
「本当なのになぁ」
甘味屋さんの店前にある縁台で他のお客さんのお皿を片しにやってきたおばちゃんにみたらし団子を追加注文。
「あ、名前!」
「神楽ちゃんに新八くん!」
「名前さんご無沙汰してます」
そろそろ今までの現れた天人の出没エリアを分析するかーなんてカバンから紙束を取り出そうとしたら、坂田のところの子どもたちに声かけられた。神楽ちゃんのそばには巨大犬…確か定春、と新八くんの手には買い物袋。
「買い物?」
「はい。定春の散歩ついでに夕飯の買い物に」
「良かったら団子食べていきなよ。今頼んだところだからさ」
「ほんとか!?いいアルか!?」
「坂田には内緒ね」
「ありがとうございます名前さん」
「ありがとうヨ〜」と素直に礼を述べる2人の姿を見て、居酒屋で奢ってやってもべろべろに酔っ払って記憶に残ってないようなダメ人間の天パのことが頭を過ぎった。良かった、そういうところは真似されてなくて。
「あらあら、なんだかお客さんが増えてるわね」
「おばちゃん、お茶も2つお願い」
「はいよ」
タイミングよくみたらし団子を持ってきてくれたおばちゃんからお皿を受け取って、代わりにお茶をお願いした。
「どーぞ。遠慮せずに全部食べちゃっていいよ、私お腹いっぱいだから」
「「いただきます!」」
まぁ、さすが年頃の子か。団子がスイスイ吸い込まれるように消える消える。新八くんが2串目を手に取ったところで顔を上げた。
「…そういえば、名前さんのご職業って…?」
「あぁ、えいりあんばすたーよ」
「えっ!あのハゲと一緒アルか!?」
「そうそう。ハゲと一緒に仕事したことあるんだよー」
「マジか。マジでか」
「星海坊主さんかぁ、懐かしいなぁ。元気にしていましたか?」
「毛根は元気じゃなさそうだけどね」
「それアルな」
「――!」
不意に、消したつもりの小さな殺気を感じ取り、視界の隅に見えた銀光する物体に身体が反射的に動いた。地面に置いていた傘を足に引っ掛けて取り上げ、それを掲げると手には手応えと、耳には衝突音が響いた。
目の前にある得物を振り下ろしてきた人物を見上げると、黒服を着こなした青年。あれ、この人は確か…
「えぇぇええええ!!?なにいきなり団子屋の前でおっ始めちゃってるんですか沖田さんんん!?」
「…悪いねェ。久々の登場だし、なんか張り切っちまった」
「本作ならまだしもこれ夢小説だからァア!そんな派手に出なくてもあなたの魅力は十分伝わってるからァァアア!!」
「この話の相手、俺が乗っとるんで」
「なんの話してんですかアンタ怒られますよいい加減」
沖田、か。彼が得物を下げるのと同時に私も傘を降ろす。次に口を開いたのは神楽ちゃんだった。口の中団子いっぱいにした神楽ちゃんは、ぷっと口から竹串を吐き捨てると沖田を睨みつけた。
ま、お行儀の悪い。
「何しに来たアル小僧」
「テメーに用はねェのだけは確かだチャイナ娘」
「んだとコルァやんのか?ァアン?」
なんだなんだ?君たちも知り合いなの?
「そこの女に手合わせ願いに来たんでィ」
「…私?」
「何言ってるアルかお前…、お前みたいなちんちくりんに名前の相手が務まるかヨ」
「そうだな、お前みてェなぷんぷくりんよか相手になると思うんだがねィ」
「何をぉぉおおお!!抜けェエエ!今日という今日こそは決着つけてやるネ!!」
目をつりあげてカンカンに怒った神楽ちゃんが沖田に飛びつく。なんだ、仲良しじゃんあの2人、なんて呑気に眺めながら団子を1つ手に取った。
「!」
今度は隠す事もしない直接向けられた殺気。今朝全くおんなじのに会ったな、と頭の片隅でそんなことを考えながら団子の串を投げる。
「グギャァァァアアア!!!」
「うぉぉあああ!?な、なんなんですかコレェ!?」
やっぱり"コイツ"か。目に刺さった串の痛みで地べたにのたうち回るコイツの首元を蹴ってへし折った。
「――1体じゃねェなこいつァ」
息絶えた"ヤツ"を見下ろすと、背後にいた沖田がそう呟いた。彼のいう通りだ。
――あと4匹はいる。そう思ったのと"ヤツら"が飛び出してくるのはほぼ同時だった。神楽ちゃんが持っていた傘で応戦。新八くんは丸腰そうだから危険だし、店内にはおばちゃんもいてかなり危ない。
状況を整理してからまた働くべくマントを脱ぐと、この場に似つかわしくない携帯電話の着信音が鳴り響いた。「へィ」なんて呑気な声。
「――あァ、絶賛応戦中でさァ。夜兎女もいる。…そうだなァ、1分ありゃ片付けちまいそうですぜィ。なんてったってあの星海坊主に次ぐ偉大なえいりあんはんたー様ですからねィ」
携帯電話を耳にあてながらニヤリとほくそ笑む沖田と目があった。
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