人は目から入る情報量が90%以上

◼︎


「………こ、こんにちは〜」

坂田さんのなんとも間抜けな挨拶のセリフ。

「…………は?」

そこにいたのはやっぱり間違いなく土方さんだった。焦りの含んだ表情で土間に入り込むと、床に転がってる私と坂田さんの姿を見つけてフリーズされた。
がしかし、流石は真選組随一のキレ者と言われるだけのことはある。頭の回転が良いらしい土方さんの手はもう既に片手を腰にある刀に添えていた。

「万事屋ァ…やーっとテメーを正々堂々としょっ引ける日が来たな」
「や、やだなーよく見てよ大串くん。この手を見てよ。ファーストがすっ転んで頭打ちそうだったからよ、慌てて助けたらこうなっただけなんだって。イヤ、ホントまじで。なっ、ファースト」
「いいえ。土方さんの声に返事しようとしたらこの人に腕を掴まれて口も抑えられて、奥の部屋に連れて行かれそうになりました。土方さんこの人を然るべき場所に連れて行ってください」
「合点承知の助」
「いやお前そんなキャラじゃねーだろ」

土方さんがすぐさま坂田さんの襟首を持ち上げたお陰で自分の身が自由になった。そのまま表へ連れて行かれる坂田さんが「オィイイイ!!まず誤解を解かせろ!!」と必死に抵抗している。
…仕方ない、頭をカバーしてくれたお礼に言い訳ぐらいは聞いてあげようか。土方さんを止めた。

「あんな、俺ァお前その格好をどーにかさせようと思ってだな!」
「…格好?………あ」
「大串くんはな、生粋の江戸っ子なんだよ。簡単に肌見せてみろ。マヨネーズに発情すんぞ」
「えっ、なんて言いました?マヨネーズ?」

ややふんぞり返るように腕を組んで坂田さんの言い訳を聞いていたら、自分の格好のことを指摘されて思い出した。そう言えばバスタオルどっか行ってた。

タンクトップに剥き出しの機械鎧。この国には確かにあまりよろしくない格好だ。土方さんにはしたない女って思われたかもしれない。

「だからって土間に押し倒すなんざ男の風下にも置けねーよテメーは。モジャモジャ風情が欲情しやがって。この際ついでだ、猥褻罪も喜んで上乗せしといてやる」
「オィイイイ!なんで上乗せだよ!何も喜べねェよ!」
「あの、土方さん…、はっくしゅん!!」

スーパーでの出来事を思い出し、坂田さんはこの機械鎧に気を遣ってくれているのに間違いないと踏んだ。
土方さんになんとか坂田さんを解放してもらおうと交渉しかけたところ、黒い羽織が肩に掛かった。

「…なんつーかびしょ濡れだぞお前。早く風呂行ってこい。風邪引くぞ」
「いえ、大丈夫です!あの、実は私…っ!」
「…分かった分かった。話聞いてやっから、まず先に風呂入ってこい。万事屋はここで見張っててやる。小指一つでも動かせばちょん切っといてやっから」
「お母さん!?何その録画しといてあげるからお風呂行ってこいみたいな!?お前いつからお母さんになった!?」
「うるせェ立場弁えろ叩っ斬るぞ!!」
「おいファースト、早くしねェと俺の小指ちょん斬られっから早く行ってきてくんない!?」
「…もう…、お心遣いありがとうございます」

早くお風呂へ行かせたがる2人にお礼を行って、風呂場へ駆け出した。




「で、なんでオメーはンなとこにいんだ。自分家の心配はいらねーってか」
「そりゃ俺のセリフだコノヤロー。真選組のそれも副長様々がなんでンなとこに来てんだ。女ひとり辺鄙なところに住んでるからか?私情挟みまくりじゃねーの?」
「私情なら間にマヨネーズ挟んで食ってやるよ。…俺の見回り担当エリアがここら辺なだけだ。何かとイチャモンつけてきやがって。そういうオメーこそなんだ。びしょ濡れの女を風呂にも行かせずに寒ィ土間に張っ倒しやがって」
「お前さ、耳にマヨネーズでも詰まってんの?ありゃただの事故だっつってんだろ。しつけーな」
「そういうお前こそ耳の穴に小豆でも詰まってんのか。服着せるだけならそう言ってやればよかったじゃねーか。しつけーのはオメーの方だバカタレが」
「知ってっか?馬鹿っつーヤツが馬鹿なんですう」
「アァン!?今すぐ座りなおせ!丁重に首叩き斬ってやらァ!」
「うるせェよ!どの辺が丁重だコノヤロー!」
「知ってっか!コノヤローつったヤツがコノヤローなんだコノヤロー!!」
「それお前も言ってるゥゥウ!!お前も言っちゃってるよコノヤロー!!」


ーーカシャン

落ちた音にそれまで言い合ってた俺と大串くんがそちらに意識を取られた。恐らく取っ組み合いした拍子にテーブルにぶつかっちまって、そこから物が落ちたらしい。

「チッ」と舌打ちしながら俺の掴んでいた胸倉を離した野郎が、落ちたブツを拾った。

「あん?なんだコレ、とけ……い…」
「ん?」

大串くんは「時計」と中途半端に区切らせながらそう言ってはそれを手中に収めたまま立ち尽くした。固まったまんまの背中に声をかける。

「おいなんだどうした」
「…」
「…おーい、聞いてる?」
「…」
「…なんだってんだ!…よ」

野郎の手元を覗き込むと勢いよくバチンとフタを締めた。あったのは珍妙な柄が掘られた銀色の懐中時計だった。

「…何。時計?」
「…みてェだな」
「いや、なんで思っくそフタ締めた?」
「…いやいや、普通の時計だよ。普通の」
「いやいやいや、お前の反応普通じゃねェだろどう見ても。瞳孔かっ開いてんぞ」
「いやいやいや、それ元々だし。俺元々開かせてるキャラだし?瞳孔の副長だし」
「いやいやいやいや、瞳孔の副長って何!?写輪眼みてェなトーンやめて!?で、なんなのその時計。なんかまずいもんでもあんの?」

大串くんの手から時計を取ろうとすると、さっと自分の後ろに引っ込めた。なんとも言えねェ空気に包まれる。
いやいや、これ絶対なにかあるヤツじゃん。コイツ嘘とか隠し事下手すぎじゃね?

「いや、ねーって。こいつァファーストの持ち物だな、ウン。風呂から出て来たら返しといてやるか、ウン」
「その語尾のウンがすげェ勘に障るんですけど。何、何があったの君」
「いやなんでもねーってマジで」
「いや俺の万事屋の超直感がその時計に何かあるって訴えてんだけど。ボンゴレの血が騒いでんだけど」
「その超直感が本物なら今頃パチンコで大儲けしてんだろクソッタレ。潮干狩りでアサリで一儲けしてこい!」
「あっ、マヨネーズが」
「オイィィイイ!!マヨネーズは丁重に扱えっつてんだろ!!」

適当に大串くんからマヨネーズをひったくってその辺に投げ捨てると、まぁ見事に釣れた釣れた。スキを見て時計をひったくって蓋の上にあるネジを押すと、バネの勢いでフタが開いた。
文字盤は少し変わってはいるが普通に時計みてェだ。

「んだよ、何が………」

後ろでため息をつく大串くんの声。

「…だから、何もねェっつっただろ」

俺は時計の、それも蓋の裏に貼ってあった写真から目が離せなくなった。見た事のねェ制服に身を包んだ今より若い…というか、少し幼さのあるファーストと男の姿。
2人とも満面の笑みで敬礼をしていた。

「…………いや、コレ、兄貴だろ?」
「にしても似てねェだろ」
「それか弟だろ」
「いやだから似てねェよな?」
「いやいや似てるって。目の幅広げて、野郎の目を二重にしたらコレほら、結構似るって」
「なんで整形させんだよ。そんなに兄弟にさせてェのかお前」

それにこの写真、何か違和感がある。なんだ…?


「ーーーあぁ、それ見ちゃいましたか」
「「あっぎゃぁああああ!?」」


後ろから聞こえたファーストの声に大串くんと2人して情けなく叫んだ。

振り返れば風呂を上がったらしいファーストの姿。髪は軽く乾かしてきたとは思うが、毛先は少しまだ湿り気がある。恰好は先ほどの恰好とは打って変わって、いつもの作務衣姿だ。

「そんなにびっくりしなくても…」
「い、いや悪いな…。落ちて拾ったら…その…」
「いえ、お気になさらず。土方さんコートありがとうございました」
「あ…あぁ」
「それ、返してもらえますか?」
「お、おう」

ファーストの手が俺の手中にあった時計を取った。作務衣の袖と白い手袋の合間に見えた銀色のそれに、あの写真の違和感の理由が分かった。
しかし再確認しようにも、もう一度見る直前にパチンとファーストが時計の蓋を閉じちまって確認ができなくなっちまった。それからニコリとこちらを見て笑ってとんでもねェ一言を放った。

「旦那です」
「「……は?」」

旦那って、なんだっけそれ。美味しいんだっけ?
いや、俺沖田くんからよく旦那って言われてるっけな。あれ?旦那って、


「「旦那ァァアア!?」」


「あの、うるさいのですが」とファーストが顔をしかめた。


PREV INDEX NEXT
top