うまい話には必ず裏があるとは限らない

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「旦那って、あの旦那!?」
「どの旦那のことですか」

2人して素っ頓狂な声を上げるのが面白くなってつい噴き出して笑ってしまった。

「やだなー、私こう見えて25歳なんですよ?そんな反応されると結構傷つくのですが」
「いやいや…うん、まぁ、そうだね。結婚適齢期だね…うん」
「なぜそんなに固まってるんですかお2人とも」
「そ、そうだよ大串くん。何?もしかしてファーストちゃんのこと狙ってたとかー?」
「ば、馬鹿言ってんじゃねェ。俺ァ真選組だ。恋だの愛だの、惚れた腫れたやってられっか。士道不覚悟で切腹モンだ」
「だよねー、じゃなきゃこんな所まで車走らせてきたりなんかしねーもんな。ま、ともかく残念だったねー。いやぁ、こりゃ沖田くんへのいいネタ手土産になりそうだなアハハハハハ」
「いやお前の方こそ随分饒舌になってやがるがどうなんだよ。心配でカッパも着ずに家飛び出してテメーの惚れた女の安全確かめに来てたんじゃねェの?なんだかんだ言ってテメーのが残念だったな万事屋」
「いや別にそんなことねェし。はははははは」
「いや俺だって別にそんなことねェしな。ははははは」
「…な、なんか怖いんですけどお2人とも…」

2人が目を据わらせたまま高らかに笑い声を挙げていると土方さんの所持していた携帯の着信が鳴った。手早く耳元に当てると、数回返事をしたのちに通話を切ってポケットの中にしまい込んだ。

「悪ィ、呼び出し食らった」
「いえ、こちらこそわざわざ様子を見に来てくださってありがとうございます」
「ファースト、コイツに何かされたらすぐにその旦那に連絡しろ。もしくは局に連絡よこせ。万事屋なんざ一晩で潰してやらァ」
「ありがとうございます。お気をつけて」

土方さんの車を見送ってから家に入ると、坂田さんの無言の視線が痛かった。さっきの話のこと、まだ尾を引いているように見える。

そんなに私には結婚の言葉が似合わなかったのかのだろうか。逆にちょっとへこむ。

「そんなにガン飛ばすのやめてください。めちゃくちゃ怖いです。あとさっきのは嘘です、すみません」
「…いや、わり……は?…え?…嘘?」
「えっと…机のパーツは…これだけか。よし」
「え?嘘って?どういうこと?ねぇ?ちょっと待って置いてかないで」

土方さんがいなくなったことだし、片づけ続行をしますか。

手始めに壊れた机を錬金術で修理していく。上手く出来上がった机を元ある位置に置き直そうと机を引き摺ると、坂田さんが手伝ってくれた。

「…さっきの写真の人は、正確に言えば‘旦那になる予定だった人'です」
「…!」
「過去形なんですけどね」

まぁ、そこまで言えば誰もがなんとなく察するだろう。私のセリフと、時計の蓋の裏にある写真の理由を。

「あー…なんか…悪ィな。…あと落としちまったりして」
「いえ、お気になさらず。もう随分前のことですし。…あ、ちなみになんですが、あの時計はその人に貰ったものではないですよ?…これは私の身分証なんです」
「身分証…?」

ポケットに入れていた時計を取り出して、表面に入った紋様を指でなぞる。

大総統府紋章に六芒星の入った銀色の懐中時計。それはアメストリス国の国家錬金術師の証でもある。今となってはそれは単に政府と錬金術師を繋げるただの首輪でしかない。本当、とんでもないことを知ってしまったな。私は。

「身分証…てことは保険証と一緒なわけ?」
「いえ、これは国家錬金術師であることの身分証です」
「は?国家…?なんだって?」
「政府直属の錬金術師ってことです。私、こう見えても元軍人なんですよ」

「写真、見たでしょう?軍服来てる写真」と言いながらふふんと鼻高々にそう言えば坂田さんからの白い眼差しが向けられた。

「待て待て待て。ちんちくりんでレンキンタマジュツシで軍人?いやいや、夢詰め込みすぎだろお前。最強設定じゃん主人公のメンツ丸潰れだよ」
「そんなにしばかれたいんですかあなたは」
「…まぁ、確かに一般市民の割にゃ腕よく引き締まった腕してんなとは思ったが」
「控えめに言ってものすごく気持ち悪いです。不愉快です」
「全然控えてないけどダメなの?見せられた側なのに感想言ったらダメなの?」

坂田さんのセリフに思わずさっと自分の体を抱きしめた。

「それにスーパーの時、お前のあの度胸といい身のこなし方といい、それなりに何かしら経験があるとは踏んでた。一般人なら震えあがっちまって声一つ出せやしねェだろ普通。最初はただの能天気かと思ったが、元軍人ならそら合点がいくわ」
「…へぇ…意外と洞察力あるんですね坂田さん。なんかいつもぽけーっとしてるイメージがあったのに…」
「一言余計だっつってんだろ。んで、そんな有能な錬金術師さんがなんでまた江戸に来てんだよ」

そのセリフに直感が何かを感じた。…待てよ?

この人よく考えたら万事屋じゃん。何でも屋じゃん。何でも屋ってことは、いろいろ情報通なのでは?この人と関わってると結構お得なことが多いのでは…?

いやいやいや、なんで今まで気づかなかったんだろう。

「あの、坂田さん!」
「うお!?な、なに!?」

直したばかりの机に乗り上げて、机の反対側に立っていた坂田さんに向かって身を乗り上げた。

「修理期間あと2日伸ばしてもいいですか!?」
「はァ!?」
「バイク修理費をチャラにする上にさらに新品同様で返却するので、私からの依頼聞いてくれませんか!?」
「…は?」

このアホ面を上手く使わないと損じゃないか!
やや食い気味に迫る私の勢いに驚いた坂田さんは、掌をズイと私の顔の前に突き付けてきた。

「いや待て待て。あのバイクが新品同様で帰ってくんのならそれはめちゃくちゃ嬉しい。だけどな、そういう甘ェ話に限って何か裏があんだろ?キャバクラ飲み放題0円だったのが実は臓器売買だったりすんだコレが。言っとくが騙されねーぞ俺ァ」
「経験談ですかソレ」
「…とりあえずその依頼内容だけは聞いてやらんこともねェけど」
「あなたの臓器は腐ってそうなので興味ありません」
「まだ糖尿病予備軍だっつーの!!」
「…糖尿病予備軍だったんですね」
「ねぇそのドン引きするのやめてくんない!?俺さっきからとんでもねェこと口滑らせてる!?」

糖尿病予備軍…。まぁ正直どうでもいい情報が手に入ってしまった。
坂田さんは土間に隣接した畳の上に腰掛けた。

「……で、何をすればいいの俺は」
「日本語を教えていただきたいです」
「は…?日本語ォ!?…お前今しゃべってんだろ!」
「あ、いや…その、聞き言葉とかは大丈夫なんです。ただ、文字の方とかが分からなくてですね…。漢字とか教えていただけるとありがたいなぁと…」
「…いや、別にそいつは構やしねェけど…。バイクの新品修理と釣り合うのかソレ?」
「私的にはものすごく釣り合いますね」
「……んまァ……うん、まぁいいや。わかった。文字の読み書きとか教えりゃいーってワケか」
「そうですね。あとは…この国の文化とか…こう、暗黙のルールとかそういったものとか教えてもらえると嬉しいです」
「あぁ、お前疎いもんな。さっき平気で男の前で裸族に近ェ恰好しやがるしよ」
「だからすみませんって言ったじゃないですか」

本当はそれ以外にもホムンクルスの情報なんかあればほしいとも思ったけれど、やはりそれは黙っていることにした。これはやっぱり坂田さんを巻き込むわけにはいかないよね。

奴らの情報は自分でなんとかするとして、どうしても生活していく上で必要な日本語や文化のことは彼らを頼るしか術がない。

「引き受けてくださいますか?」
「合点承知の助」

土方さんと同じようなことを言う坂田さん。やっぱりこの2人は仲が良いとしか思えない。


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