素直が正義とは限らない
◼︎
ボールを追いかけて来た男の子に立て籠り犯が銃を突きつけた途端、二人の間に突如立ちはだかったのは、白…いや、坂田さんだった。私がその人物が坂田さんであると認識したのは銃声が響いた後のことだ。
「……さ、」
胸の辺りを撃たれたらしく、坂田さんの体が銃の衝撃で少し後ろに傾きながら地べたに倒れ込んだ。その全ての動きがやけにスローモーションのように見えて、咄嗟に駆ける自分の体がやけに重たく感じた。
「坂田さん!!!」
「テメーら何をボサッとしてやがる!さっさと確保しろ!!」
土方さんの怒号がどこからか聞こえた気がしたけど構わず私は坂田さんのところへ駆け寄る。
「坂田さん!!坂田さん!!しっかりして!!」
地面に倒れる坂田さんの肩を掴んで揺らす。
うそ、うそだ。なんでこんなことに!息が乱れて呼吸がままならない。視界がグラついて目から落ちた涙が坂田さんが着ている作業着を濡らした。
「坂田さん!!」
どうしよう、こういう時どうするんだっけ。軍人時代散々似たような場面に遭遇しているというのにどうしてか彼のことになると、ジンの時と同じように頭の中がパニックになってしまって自然と苛立ちが募った。
「……っあー…くっそ、イテェ」
「…へ」
布越しに筋肉が動く感覚。それはやがてはっきりと目に見える様に動き出して、坂田さんは私の手をぽんぽんと優しく撫でるように軽く叩くとゆっくり身を起こした。
銃を、それも至近距離で食らった筈なのにすんなり身を起こす坂田さん。あり得ないことが目の前に起きていて、「あり得ないことはあり得ない」昔誰かが言っていた台詞が過ぎった気がした。
「さかた、さん…?」
銃弾のサイズに穴が空いた胸ポケットから何やらごそごそと取り出したのは一枚のシルバーの金属板。板面には銃弾が衝突したであろう銃痕らしきものがくっきりと残っていた。
「まーたお前に助けられちまったな。主人公のメンツ丸潰れさせやがって。メンツキラーかお前は」
「…あ……」
「これだよ。お前さんの」
そう言って坂田さんは私の右手を指先で小突く。これ、というのは機械鎧のことで良いのだろうか?というよりこれ以外の素材が思い当たらない。
「な、んでそれを…どうして…」
状況を全く理解できずにただひたすら坂田さんの手の中にある機械鎧の鋼板を眺めると、坂田さんは何やら小っ恥ずかしそうにしながら白くてフワフワな頭を煩雑に掻き、唇を尖らせた。
「前に源外のじーさんに渡されたんだよ。お前のその腕を修理したことあっただろ?」
「…あぁ、はい……」
「そん時に出たパーツを溶かしてとりあえず板にしたんだってよ」
そう、だったんだ…。
続いて胸ポケットから取り出したのは鋼の硬さに負けて潰れてしまった銃弾。機械鎧に使われている鋼の素材は普通の鋼よりも炭素の含有度が高い。鉛が主成分の銃弾はいとも簡単に潰れてしまう。
そっか、これが坂田さんを助けてくれたのか。理解した途端にぶは、とそれまで無意識に留めていた息を吐き出して腰が抜けた。
ーーーーー
あの後テロリストは無事真選組が確保。
銀行員の女性も突然飛び込んできた少年も怪我なく無事で、この一件は死人を一人も出すことなく片付いた。
念のため坂田さんはあの後一旦病院送りされたけど、病院の先生とは随分顔見知りなのか坂田さんが診察室に一歩入った途端「お前は大丈夫」と門前払いされているのを見た。私からもフォローを入れて一応診察してもらったけど。
「あーあ、仕事終わりにえらい目にあったわ」
「自分から飛び込んだじゃ無いですか…!もう無茶しないでくださいよ…」
「へいへい」
原付を押しながら二人で万事屋へと向かう。
いくら胸に鋼板があったとは言えあんな至近距離で胸元に銃を撃たれて骨一つ折れてないとかそんなことあるんだろうか…?前々から思ってたけど坂田さんの体の方どうなってるんだろうか。
私の頭の中は先日の暴挙の謝罪についてよりも坂田さんの不思議な身体能力についての疑問でいっぱいだった。
「…なあ」
「なんですか?やっぱりカルシウムとか?」
あとは加えてビタミン系か。坂田さん不摂生なイメージあるけど意外に無意識に栄養バランス取ってたりして。
「は?」
「あ、いや、すみません。こっちの話なので気にしないでください…。それで、なんでしょうか?」
「これさ、その…あー…」
「なんですか歯切れの悪い…」
ぴたりと歩む足を止めた坂田さんはあー、だの、うーだの、あれこれ一人で葛藤した果てに何かを決したかのように顔を上げて私を見た。
「あー、これ、指輪にしたら受け取ってくんねぇか?…薬指用の」
私は元軍人だし科学者でもあるから頭の回転はかなり良い方だと思う。けど、今坂田さんが言った台詞を何故が頭が処理してくれなくて、「は」と小さな声が出た。
「…え、まさかお前の国にこの文化無い感じ!?銀さんひょっとするとひょっとして大スベリ!?」
「えっ、ちょ、待ってください!?どういうことですか!?」
「どうもこうもそういうことだっつってんの」
「いや、だって、でも、」
「何、前の男は良いのに銀さんはダメなの?」
「え、ちが、」
さっきまで死にかけたというのに次はなにを言うのか。しどろもどろになったり照れたり焦ったりと表情がころころ変わる坂田さんを見ているうちに面白くなってしまって顔が綻ばせたら「なに笑ってんだコノヤロー」と怒られた。
「坂田さん」
「あ?」
「日本刀に使われている素材をご存じですか?」
素直じゃない私からの意地悪な質問に少し目を丸くした坂田さんは「あー」と軽く空を仰ぎ見ながら答えを出した。
「……鉄?」
「玉鋼、っていう素材だそうですよ」
「…おぉ…?」
「鋼はお侍さんにもぴったりの素材……私たちにお似合いの指輪ができそうですね」
「!」
そう言った後の坂田さんの顔が驚きに満ち溢れていた表情を浮かべていて、それが最高に面白くなって私は吹き出すように笑った。
fin.
PREV INDEX NEXT
top