人は後悔から学ぶ素敵で無敵な生き物
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「いや!ナシだよね!?あれはないよ私!」
翌朝、寝起き早々私は頭を抱えた。
「いや、でも、うーん」
歯磨きをしながら唸り、顔を洗いながら唸り、着替えながら唸る。
いや…あれは何度考えても間違いなく正当防衛だ。未だにこの国の憲法云々は詳しくないけど、少なくともアメストリスなら十中八九正当防衛で通る。大丈夫、それに私元々この世界の人間じゃないし、すみません知りませんでしたで通る…はず。いや、でもあれは痛かっただろうな…。
こんなにも頭を抱えることになった話は昨晩のことに遡る。
路地裏に響いた轟音が静まり返った頃。
「は、ぁぁあ……っ」
地面にひっくり返った坂田さんの姿を見届けてからついその場にへたり込んだ。いや、本当に危なかった。いろいろと危なかった。
呼吸が整ってきてふと自分の格好を見返せば作務衣の上が大分着崩れていて、慌てて直す。
「…なんて人だ…」
顔が、体が暑い。つい錬成で石の拳を作って殴ってしまった…けど、まさか触れるだけのキスかと思ったらそこまで触れられるだなんて思わなかった。完璧に油断してた。恐る恐る坂田さんの顔を覗き込んでみると、鼻血を垂らしながら白目を剥いている。…あー。
「…あー…これは…痛そう……」
いやいやでもこれは正当防衛。うん、そう、身の危険を感じたから仕方ないやつだと自分にそう言い聞かせた。
熱い顔をペシペシと叩いて円形の壁のを元に戻す。動悸が収まって冷静さを取り戻すと、気絶した坂田さんをどうしようかひとり思案する。流石にこのまま置いていくのも可哀想なので放り投げ出された足を掴んではそのまま万事屋に向かうことに。軍人時代散々筋骨隆々な男どもを運んだ経験があるから坂田さん一人くらいこうして運ぶのは容易い。後頭部のことは知らない。
こうして寝ぼけ眼で出迎えてくれた神楽さんに謝りながら坂田さんを押しつけ、タクシーで酔いながら逃げ帰った次第である。
「いや、である。じゃないよ私。とりあえず、色々と謝らないと…。特に神楽さんは何も悪くないから酢昆布を持ってお詫びに行こう…」
善は急げだ。身支度を整えて最近買ったばかりのバイクの鍵を手に家を後にした。
ーーーーー
「あれ?ファーストさんこんにちは!珍しいですね?」
「こんにちは新八さん」
神楽さん行きつけの駄菓子屋さんでお詫び用の酢昆布を購入し万事屋へ向かう。緊張しながらインターホンを押すと中から出てきたのは坂田さんでも神楽さんでもなく新八さんだった。
「えっと、あの…」
「あぁ銀さんですか?今神楽ちゃんと仕事に行ってまして。何か用でしたか?」
「あっ、そうなんですね…!えーと、それじゃあコレだけでも神楽さんに渡してもらえますか?」
差し出したビニール袋を受け取った新八くんは眼鏡のブリッジを押し上げながら袋の中身を覗き込むと「臭ァア!?」と仰け反った。
「な、なんですかこの量の酢昆布…!」
「先日ちょっとご迷惑おかけしちゃいまして。お詫びの酢昆布です」
「いやこれお詫びを通り越して嫌がら…ごほん!そ、そうなんですね…!」
「それじゃあ、私はこれで。また改めてお伺いします」
「なんだか事情が分からないんですが…態々すみません…!神楽ちゃん喜ぶと思います」
「いえ!迷惑をかけたのは私の方ですから」
「またそのうち神楽ちゃんがファーストさんのところに遊びに押しかけちゃうかもしれませんが…よろしくお願いします」
「いつでもお待ちしてますよ」
そう伝えて新八さんに別れの挨拶を交わし、万事屋を後にする。そっか、坂田さん仕事だったんだ。ホッとしたようなそうじゃないような。
ーーーーー
「な、なぜ…」
あの日から一週間ほど経ったけど私は未だに坂田さんに会えずにいた。別に避けているわけではない。ちゃんと会いに行って謝ろうと何度か万事屋を訪れていた。でも行けばある日は、
「え?銀ちゃん?今日仕事アルよ」
酢昆布を口にした神楽ちゃんにそう言われ。また別の日は、
「銀さん昨日急に仕事入ったみたいで。最近いろいろ引っ張りだこなんですよねー」
また新八くんにそう言われ。それからまた別の日は、
「銀時様なら今朝方皆さんと一緒に出掛けられましたよ」
お店の前で掃き掃除をしていたたまさんに言われた。こんなに会えないことってある?
「うーん、酷いことしたのは事実だしこのままなあなあにするのも気分が悪いしなぁ…」
原付を引きながら往来を歩く。今日も会えなかった…。
「今度行ったら改めて時間作って欲しいってお手紙でも置いていこうかな……ん?」
不意に視線を上げた先にあった人集りに目が止まった。
心なしかその向こうから拡声器越しに怒号のような何かが聞こえる。物陰に原付を置いて人集りへと向かうとその先には黒い制服に身を包んだ真選組の姿。規制線の向こうには山崎さんの姿が見えた。この不穏な空気…何か重大な事件でもあったのだろうか。きっとおそらく土方さんと沖田さんもどこかにいるだろう。
「すみません、何があったんですか?」
「テロリストだってよ。おっかねぇよなぁ」
近くにいた人から話を聞けばこの先の銀行内でテロリストが店舗に立て籠っているらしい。
立て籠りかぁ。マスタング大佐とかアームストロング少佐はこういう時大体錬金術でゴリ押しだったなぁ。あれはあれで怪我人続出で警察病院関係者が苦い顔をしてたことを思い出す。
「ー!」
直後に響いた銃声に人集りは散り散りになり、私は反射的に身を屈める。
人がいなくなったことで視界が随分と開け、私の姿に気づいた山崎さんが驚いたような眼差しを私の方に向けるので、挨拶と言わんばかりに軽く会釈した。
「オラァ!!この女死なせたくなかったら逃げ道開けろォオオ!!」
「…」
ガラス製の自動ドアから出てきたのは目出し帽の男。一緒に連れ出した銀行員の女性の髪を掴んでいて、そのこめかみには銃口を突きつけている。
「(…加勢しますか)」
ゆっくり両手を上げようとするとすぐにこちらに銃口を向けられ、近くの地面に銃弾が直撃。私も動きが止まる。
「動くなクソアマ!!!」
「…はぁ」
どうやらかなり目敏いタイプらしい。何も持ってない両手を上げようとしただけなのにこの過剰な反応だ。どうしたものかと小さく溜息を吐くと誰かの叫び声。
「だめよ!!やめなさい!!戻りなさい!!」
「!」
そちらに視線を送ると真選組に取り押さえられた女性。さらにはこちらに向かって走ってくる子供の姿。
「ちょ、」
その子供は犯人の目の前に飛び込んできたボールに向かって走り寄る。嘘でしょ?
「脅かすんじゃねぇクソガキャァア!!!!」
たかだかボールに驚いて肩を震わせた男は目の前に飛び出してきた男の子を一目見ては怒号を上げて銃口を向けた。
「待って!!!」
銃口が子供に向けられた途端両手を叩く。だめだ、今から錬成しても間に合わない…!!
刹那白が駆け抜け、直後に銃声が走った。
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