錬金術は台所から生まれた事はなんか納得

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「納期設定短くしすぎた」

スパナを回す手を止めて、率直に思ったことをそのまま口に出した。
最悪錬金術に頼ればいいけど、できる範囲でなら手直しがいいなんて、修理屋としての妙なプライドが根付いてしまったものだ。

「あぁ、ねむ…」

まだ昼を過ぎたばかりだと言うのに大きいあくびが出た。完全に寝不足だった。
なんで人って眠るように作られたんだろう。人を生み出したのがカミサマとやらなのなら、なぜ睡眠という余計な機能を付け加えたのだろうか。人類発展なら睡眠時間は不要だろう。となるとカミサマも完全ではない可能性も出てくるな。いやでも適度な休息がなければ確かに効率は悪いのかもしれない。

あぁともかく余計なことを考えてしまうくらいに眠い。いやいっそのこと寝たほうがいいのかな。一度眠って寝不足解消した方がそれこそ効率が上がるか。

…いや、だけど寝るわけにはいかないな。気張れファースト。もうじき坂田さんが来るのだ。バイクの修理期間中私のバイクを貸して、買い物をして来てもらうことになっている。自分で言い出したんだから起きて待ってないと。坂田さんが来たら寝よう。

「おーい、ファースト。買って来たぞ」
「坂田さん」

坂田さんの声と引き戸が開く音に顔を上げる。土間に入って来た坂田さんの手にはスーパーのビニール袋が下げられていた。
それを受け取りに土間に降り立ち、袋を受け取った。

「ありがとうございます」
「おー。にしても、なんかひでェ顔してんな」
「ちょっと納期設定ミスりまして。スケジュールギリギリなんです」
「あー。お前それしっかりやらねェと経営的に命取りになんぞ」
「ですよねー。暇そうな坂田さんに諭られたら終いですねー」
「だから一言余計だっつってんだろ」

そんな他愛無い話をしながら受け取った袋を畳の上に置く。

「んで?」
「え?」
「メシは?」
「まだですけど…、気が向いたら作ります」

錬金術で。というのは黙っておいた。錬金術は台所から生まれたとも言うし、食材さえあればなんとでもなる。味は…うん、まぁ悪くないよ。多分。自分で食べる分にはなんも問題ない。

「…しゃーねーなァ。万事屋のサービスだ。昼メシ作ってやらァ」
「え?」
「台所どこ。案内して」
「えええ!?いや、大丈夫です!申し訳ないですから!」
「もともと10万ボられそうになったのが5000円で済んでんだよこっちは。原チャリレンタルさせてもらってスーパーの買い物だけで済んでる方がなんか申し訳ねェ感あるだろ」
「…坂田さんてそんな感情あるんですね…」
「勝手に上がらせてもらうわ」
「ああああ!」

坂田さんに畳の上のスーパー袋をひったくられて土間から一段上がった畳の部屋に上がる。や、やばい!台所ほとんど使ってないから調理器具ほとんど用意してない…!慌てて坂田さんの服を引っ張るが既に遅し。土間に隣接した作業場スペースの奥にある襖を開けると、茶の間が広がり、その横にある襖をさらに開けると台所が広がる。

「…なんか、生活感0だな」
「こ、越してきたばっかりですし!!」

適当に言い訳していると台所の収納場所を勝手に開けられた。もちろん空だ。

「オイオイフライパンもねーのにどうやって料理してんだお前」
「あ!フライパンそういえばあっちでした!取ってきます!」

慌ててその場から離れて適当な部材でフライパンを錬成しに行き、坂田さんの元へ届ける。

「あれは、菜箸どこ。フツーの箸でも良いけど」
「それはあっちでした!」

バシィ

「オイオイ包丁は。あれがなきゃ始まんねーだろ」
「それ向こうでした!」

バシィ

「ヘラはどこだよ」
「多分あっちですね!」

バシィ

「……なんで全部台所に置いてねェのお前」
「あは…あはは…」

台所と茶の間の間にある襖を閉めて、ぐったりと横になる。つ、疲れた。なんでこんなことになった…。強烈な睡魔にもうどうにでもなれとそのまま目を瞑った。


ーーーーー


「ーーおい、起きろ」
「…ん?」

体を揺さぶられて、機械鎧が小さく軋み音を立てた。「あ、寝てた!」と反射的に起き上がると頭に衝撃が走った。脳天に響くようなやつだ。

「「〜〜〜ッ!!」」

あまりの痛みに頭を押さえながら上を見ると、そこには私と同じように頭を押さえる坂田さんの姿。

「〜ってェな…!」
「〜なんでそんな所に頭が、…っ」
「…っ、とりあえずメシ、出来たからさっさと食え」
「…あ、ありがとうございます…」

途端に美味しそうな匂いがして、茶の間にあるミニテーブルに視線を動かすと匂いの元がそこに置いてあった。
オムライスだった。この国に来てから何度か食べたことある料理で、トマトと卵をよく生かした料理だ。

「わ、美味しそう…!いったァ!?」

お皿に手を伸ばそうとするとその手を叩き落とされた。よりによって生身の左手の方を、だ。

「酷いじゃないですか坂田さん!」
「酷いじゃねーだろ、メシ食う時は手袋外せ。かーちゃんに教わんなかったのか」
「あぁ、すみません。ついクセで」

ふと自分の手を見下ろした。

アメストリス国にいた時も手袋をよくつけてたし、こちらの世界に飛ばされてからも修理屋としてしょっちゅう手袋をしていたから、なんというか体の一部のような感覚過ぎてすっかり忘れていた。
坂田さんに言われた通りに手袋を外して、いただきます、と手を合わせてほかほかのできたてのオムライスにスプーンを差し込み、一口食べる。

「……なにこれ…すっごい美味しい…です」

使ってる食材や調味料はスーパーにあるものとそう変わらないはずだ。なのになんで…?
分量の問題か…?

「某少年推理漫画じゃねェんだからそんな事件が起こったみてェな顔すんのやめてくんない」
「信じられないです…。あの坂田さんからこんな美味しいもの出来上がるんですか?一体どんな法則で…」
「信じられねーのにも程があんだろ!褒めてんのか貶してんのかわからねェレベルだよもう!!」
「あははっ、だってすごく美味しいから…!……それに久しぶりです。こうやって誰かの手料理食べるの」

キシ、と機械鎧が軋んだ。ふと、坂田さんの視線の先がこの手にあることに気付く。

「…相変わらずすげーな、それ」
「これ、機械鎧って言うんです」
「ほぉ」

少し袖を上げて腕を見せる。カグラさんにはカッコいいとは言われたけれど坂田さんから見たらどうなんだろう。いや、どう思われてもこれを外すわけにはいかないんだけど。

「金属…なのか?その中も」
「はい。私、昔ヘマして腕のこっから下が無いんです。どーんって持ってかれちゃって」
「持ってかれちゃってって…そんな軽いトーンかよ…」

右腕二の腕の半分あたりをトントンと叩く。少し顔を歪ませた坂田さんに笑いかける。

「でも、これ便利なんですよ。熱いものとか冷たいものとか、素手で触るのはちょっと危ないものとか触れるんで」
「ごめ、それ俺どういうテンションで突っ込んだらいい?」
「…普通でいいんじゃないですか?」
「その普通がわかんねェから聞いてんじゃん。…にしても、そうやって見てっと、普通の生腕とかわんねェな」
「ですよね」
「どうやって動いてんのソレ」
「神経繋いでるんです」
「…えぐいな」
「そうですか?」

左手でオムライスを口に運びながら右手をぐーぱーしてみるとまた微かに軋み音を立てた。オイル最後にさしたのいつだったかな。夕方にでもメンテナンスしてあげないとな、オムライスを頬張りながらそんなことをぼんやり考えた。

「ーーご馳走様でした」

パンとまた両手を合わせた。すると目の前にあった空皿がひょいと持ち上がった。

「あ!片づけは私がやります」
「ばっかオメー知らねェの?料理ってーのは片づけまでが料理よ」
「…!」

…時々、この坂田さんの人なりというものが分からないときがある。普段の言動だったりカグラさんや新八さんからは「人の底辺」と言われるくらいの自堕落的な人間っぽいのに、たまーにこうして筋の通った言動をすることもある。悪い人ではないというのはもともとわかっていたが…。

坂田さん、不思議な人だ。

「本当、ありがとうございました」

水切り籠が台所にないので慌てて錬成しに行き、洗物まで済ませてくれた坂田さんを表まで見送る。私の原付バイクに跨りながらヘルメットを被る背にそうお礼を伝えた。

「おー。また明日電話でもしてくれや」
「はい。お願いします」
「お願いしてんのはこっちの方だっつーの。んじゃな」
「さようなら」

いつもならある程度姿が小さくなったら家に入ってしまうのに、その時はなんとなく背が見えなくなるまで坂田さんの姿を見届けた。

またこういうことがあると慌てるから、事前にキッチン道具を調達しに行かないと。彼の背中を見ながらそう決めた。


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