餅は餅屋、アイスはハーゲンダッツ

◼︎


「よォ、頼んだ修理できたか?」

目の前の修理品に勤しんでいると、表の引き戸が空いて男の人の声がした。

「ヒジカタさんお久しぶりです」

顔を上げると、そこにはヒジカタさんの姿。先日バズーカ砲の修理依頼をもらった真選組の副長さんである。黒い隊服をビシッと着こなしていて、彼の整った顔とよく似合った。

前にかぶき町の繁華街まで買いに行ったのはこのバズーカ砲のに使うパーツを買いに行くためだった。携帯灰皿にタバコを押し付けながら土間に入るその表情には少しだけ疲労感が見えた気がした。

「何かお疲れですか?」
「ん?…あぁ、数日前にスーパーの立てこもり事件があってな…。片付けに手間がかかったんだわ。なんでも、人質の中にとんでもねェ化け物みてェに強ェ奴らがいたとかな。そいつらのお陰で犯人どもはまとめて検挙できたが…そのアホどもが何処の誰かもわかんねェんだこれが」
「……大変でしたね…」

すみません。そのアホどものうちの1人がここにいます。
内心冷や汗をかきながら頼まれていた修理の品を手にする。

「できてますよ。バズーカ砲2本分」
「わりィな急かしちまって」
「いえ、とんでもないです。お仕事頂けるお客様は神様ですから。神様のご依頼ならお急ぎしますよ」
「フッ、どっかの馬鹿に爪の垢を煎じて飲ましてやりてェな」
「あ、例の後輩さんですか?」
「よく覚えてるじゃねェか」
「上司の首を取りに行こうだなんてインパクトありますからね」

雑談に花を咲かせながら、バズーカ砲の壊れた箇所を簡単に説明して、修理手順も手短に伝える。単純に使いすぎて中で煤が溜まって火力が落ちたようだった。

「メンテナンス受け付けていますので、また壊れる前に是非」
「あぁ悪ィな。代金は月末にまとめてで良いか?どうせすぐまた世話になるかもしれねェしな」
「真選組さんならいつでも良いですよ。じゃあ、請求書だけ渡しておきます」
「そうしてもらえると助かる」

そうとくれば請求書の作成だ。と思って紙と向き合ってまたもや冷や汗をかいた。

いやいやいや、今すごいしれーっとスムーズに会話してたけど、よく考えたら私漢字書けない!!真選組までなら書けるけど!ヒジカタさんの苗字の漢字知らない!あれ、真選組だけで良いのかな?内心テンパる。

「え、えっと、ヒジカタさん、ここに名前書いてもらえます?字、なんて書くのか分からなくて」
「あ…?……土と方でヒジカタだが…、まぁいい。ペンくれ」
「どうぞ」

危なかったー!

そうか、土と方でヒジカタって読むのか。そのまま土方さんの字を追うと、十四郎まで書いてくれた。が、読めん。十と四は読めるけど、ジュウヨン…いや違うよね。トウヨン…トウシ…えっと、

「えーと、土方……トウ……」
「まんまだ。トウシロウ」
「へぇ、土方十四郎さん」
「別に珍しい名前でもなんでもねェだろ」
「いえ、素敵な名前だなぁと思って」

一緒紙を見て固まった土方さん。それからゆっくり私を見た。

「なんですか?変なこと言いましたか?私」
「………お前…それ誰にでも言うのやめとけよ…。勘違いされんぞ」
「何を?」
「天然の類か」

笑わなさそうな土方さんが一瞬だけふと笑ったから少し驚いた。真面目で堅苦しそうなのに意外な一面を見れた気がした。

「ま、ともかく助かったわ。…理吉のガキに修理してもらいたいものは無ェかしつこく付き纏われた時と、ここに初めて連れて来られた時ャ俺ァてっきり宗教の勧誘にでもあったのかと思ったわ」
「ふふ、失礼ですね」
「腕は確かだな」
「ありがとうございます」

実は先日からウチに出入りしていた理吉の実家は新聞屋さん。どうやら知らない間に沢山広めてくれたらしく、ご縁があってか幕府御用達の武装警察、真選組の土方さんの耳にも修理屋の話が入ってきたそうな。

バズーカ砲を袋にしまって無事完成した請求書も土方さんに手渡す。

「にしてもお前、こんな所に住んでて不便じゃないのか」
「え?」

表へ出るとパトカーの後部座席にバズーカ砲を置いた土方さんが一度こちらを振り返った。

「もう少し移動が楽な町中に住みゃあいいじゃねェか」
「あぁ、よく言われます。でも意外とここは良いんですよ。静かで、川のせせらぎや鳥の鳴き声とか…癒されます」
「都会の喧騒に疲れたサラリーマンみてェだな」
「住んで見たらわかりますよ」

「ーー客には遠くてたまんねェけどな」

「…チッ、またてめェかよ。何しに来た」
「何ってお客ですぅー!いちゃ悪いんですかァ?で?大串君はなんなの?公務放って若い女の子と逢瀬?いやぁ、鬼の副長殿もなかなか隅に置けないねェ」
「残念だがこれからバズーカとドライブするところなんだよクソッタレ」

振り返れば坂田さんの姿。最近よく見かけるなぁこの人。
2人は知り合いの様だが、仲が良いと言う訳ではなさそうだ。盛大に舌打ちをした土方さんは後部座席のドアをやや力強くしめた。

「じゃあまた来る。こいつからの仕事は請求書に0一つ付けとけ」
「あははっ、そうします。ありがとうございました」

遠くなるパトカーに向かってヒラヒラと手を振った。それから坂田さんの方を見る。

「どうしたんですかこんな辺鄙なところまで」
「バイクぶっ壊れたんだわ。見積もり出してくんね?」
「見積もりですか」
「かぶき町にあるからくり堂ってェ店があんだけどよ、あっこのジジイに見せたら額がアホみてェに高ェんだよ」
「へぇ…?万事屋さんならご自身で修理された方がお安いんじゃないですか?」
「餅は餅屋っつーだろーが。バイクはバイク屋が一番だろーが。さっさと見てくれや」
「はいはい。バイク屋じゃなくてただのしがない修理屋ですけど、とりあえず中へどうぞ」

坂田さんに土間までバイクを引いてもらう。それからずっと渡そうと思って渡せなかったものを取りに行き、坂田さんに手渡した。

「坂田さんこれ、ありがとうございました」
「あ?なんだこれ……あぁ、これか」
「なんか臭かったので念入りに洗っておきました」
「お前よく一言余計って言われねェ?」
「そちらこそ」

風呂敷の中に包まれていたのは、先日スーパー強盗があったときに貸してもらった坂田さんの羽織だ。
銃を掴んで錬成をすると同時に発砲されて手元で銃が暴発してしまい、手袋や裾を焼け焦がせてしまった。機械鎧が剥き出しになったところを坂田さんがこの羽織を貸してくれたのだ。

「助かりました」
「…おー」

それから例のバイクと向き合ってエンジンをかけようとするが、かからない。ふむ。

「多分コレ、スパークプラグがダメですね。中で電極でも溶けてるんじゃないですか?」
「難しいこと言ってくんな」
「要するに壊れてるってことですね」
「要しすぎだろ。こちとらンなの分かっててここまで来てんだよバカにしてんのかお前は」
「あっ…そうなんですね、すみません…っ」
「白々しいにもほどがあんだろ」
「えーと…金額はー…そうですね、ざっと5000円とかそのくらいですかね」
「まじか。まじでか」
「あ、土方さんに0一桁足す様に言われてたんだった。やっぱり5万で」
「で、じゃねーだろ!ボッタクリにもほどがあんだろ!」
「からくり堂さんでボられそうになったんでしょう?じゃあ良いじゃないですか」
「…お前さぁ、体内に暖かい血って流れてる?」
「で、どうするんですか。余計なこと言わなければ0下げますよ」
「やべぇ女神だわ。なんなのメカの女神なのお前。即決でお願いしますメカミ様」
「本当一言余計ですね」
「お前もだろ」

素直だ。修理依頼書を手にして修理内容を書き進める。開けてみないと分からないけど大方スパークプラグの交換、かな。日数はどうしよう…。他の依頼書と見比べて仕事のスケジュールを確認する。

「なァ、それ何語なわけ?すげぇフニャついてっけど」
「!」

いつのまにか背後に回られて体が強張った。バイクを見に行くフリしながらゆっくりそれとなく坂田さんから距離を取る。…全然気付かなかった。

「…修理業界の、です」
「ふーん」

…ちょっと苦しい言い訳だったけど、通じたのか、坂田さんはもう興味なさそうにして土間に置いてある部品を眺めに行った。平静を装いつつ、おおよその日数を計算していたが頭の中はだいぶ焦っていた。

「えーと、じゃあ……3日後取りに来てください」
「5000円でやってくれんなら任せるわ」
「今日は私の原付乗って帰ります?」
「え」
「こんなところまでバイクひいてきたんでしょう?帰りも歩いて帰るのは大変でしょうし」
「でもお前だって買い物にバイクねェと困るだろ?」

まぁ、確かに。
でもここまでバイクひいて来た坂田さんをそのまま帰すのは正直気が引ける。

さて、どうするか。


ーーーーー


「えっと、ファーストさん…?これなんか大丈夫?」

後ろで坂田さんが心配そうに声をかけて来た。それを他所にバイクの鍵穴に鍵を差し込んでエンジンをかける。
そう、いろいろ考えたのだが、坂田さんを家まで届けることにした。

「余計なところ触ったら即行落としますから」
「マジでやりかねねェトーンだなオイ。手のやり場所にすげー困るんですけど。どうせ乗るなら逆にしねェ?なんかアンバランスだよコレ。お前も夢だったんじゃねェの2ケツで後ろに座んの。場所変えたら叶っちゃうよ?相手銀さんだけど叶っちゃうよ?」
「そんなことしたら私の手のやり場所に困るじゃないですか!」
「なんでお前の方が困るんだよ!!野郎に抱きつかれるよかマシだろーが!あーもういい変われ!お前後ろ!良いな!」
「なんで送られる側の人間が偉そうなんですか」

ぐっと腕を掴まれて降ろされ、坂田さんが前の操縦席側に座った。ダメだ、こいつ絶対動かない。
はぁ、と短いため息をついた。

「ならこうしましょう。これ、万事屋さんへの依頼です。バイクの修理期間、私の代わりにスーパーで買い物して来てください。前にもらった名刺の番号に電話かけますから、その時に買って来て欲しいもの伝えます。お金は持って来てもらった時に払います」

「それでどうですか?」と尋ねてみたらため息が返って来た。そしたら苦々しい声でこう言った。

「…そんなに俺の後ろが嫌かテメーは」

「はいもちろんです」と素直に言ったら頭を叩かれた。酷い。


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