新4


12

 祭壇に刺さった聖剣。
 その傍らで、目覚めるはずのないジーノは、目を覚ました。
 相変わらず、爪は丸い。が、不思議な気持ちで、残念に思うことはなかった。
 ジーノは寝返りを打つ。すると、傍に膝をついたチェザがいることに気づいた。
 自分の顔に、温かい何かが降ってくる。
 チェザの涙だ。
 チェザが泣いている。
 ジーノが起き上がると、チェザの瞳から更に涙が溢れた。
「チェザ、泣いてるの」
 泣かないでと、チェザの頬に手を伸ばすと、その手を取られた。
「ジーノ、ジーノっ……」
 自分の名を呼ぶチェザに、前のチェザに戻ったことを知る。
「すまなかった。色々、悪かったと思ってる。でも、それより、言えなかったことがある」
 チェザが、ジーノの瞳を見て云う。
「愛してる。あの時、言えなかった。ずっと、愛してた」
「うん、うん……俺も、愛してるよ、チェザ」
 チェザの涙につられて、ジーノも涙が流れた。
 二人は、笑って涙を流し、抱き合った。
 チェザは、心を失っていた間のことを覚えていた。今までの経緯もすべて記憶しているらしい。
 だから、ジーノに乱暴したり、無理に抱いてしまったことを謝ってきた。ジーノはそれをすぐ許したが、気にしないでと返した。
 チェザは、なんだか納得していない顔をしていたが、すぐに伝えなければならないことを思い出して、ジーノに向き合った。
「魔術師には、本当の名前がある」
「え……」
 今まで、苦楽を共にしてきたというのに、ジーノはそれを知らず、少なからずショックを受ける。
「知らなくて、当然だ。魔術師は、本当に大切な相手にしか名乗らない」
 お前の命と心を引き替えた時、伝えられなかったと、チェザはジーノに本名を名乗った。
「チェザーレ・トゥナ・スィ・リディア。これが俺の名だ」
「チェザ―レだから、チェザって名乗ってたんだね」
「ああ。そして、お前はジーノ・トゥナ・スィ・リディアだ」
「え?」
「俺と共に在るのなら、そうなる」
 傲慢な彼は、そう主張する。それって、つまり。そういうことなのだろう。
 ジーノは、照れて笑って頷いた。
 どこかの、知らない教会のステンドグラスから光が差し込む。
 二人は言葉を交わすのを止めると、自然と唇を重ねた。


※WEB掲載はここまでとなります。エピローグ+番外編はオフ本にて。

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