乱雑に置かれた郵便物の中、一通の手紙が紛れていることに気がつく。差出人は数年に一度は目にする名で、それに目を通さず捨て置くのも毎度のことだった。何年か前までは読むこともあったが、読まずにいた方が精神衛生上良いというのは工藤家全員一致の意見である。
 これが届けられた日にはどうしても何かをする気にはなれない。昔は憤慨して破り捨てたこともあったが、今は憤るよりも呆れと虚脱感に襲われる。

「……あ、そろそろ出ないとバイトに間に合わないな」

 よいしょとソファーから腰を上げ、ダイニングを後にした。

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「希咲おねーちゃんっ」
「いらっしゃいませ、コナンくん」

 アイスコーヒーね、といつも通りの注文を確認すれば「希咲お姉ちゃんのスペシャルメニューも追加で」と笑顔を浮かべた。土曜日で学校がお休みということもあり、お昼を兼ねているらしい。蘭やおじさんのことを聞けば、おじさんは依頼があり事務所を空け、蘭は蘭で用事があったそうだ。蘭は作っていくつもりだったようだが、コナンが「ポアロで食べる」と言ったためそのまま出かけたのだそう。私のシフトは蘭も知っているから、余計安心だっただろう。

 アイスコーヒーとフレンチトーストを新一の前に置いて、「お待たせ致しました」と笑う。料理の腕前は悪くはないし、自分の作ったものを人に食べてもらうのは好きだった。

「……やっぱ希咲の料理はうめェな」

 ボソッと呟いた言葉は新一そのものだった。あくまで今はコナンなので注意しなくてはならないけれども、自分の出したものを喜んでもらえるのは素直に嬉しかった。厄日だと思ったが、こうして家族がバイト先に来てくれるのはいつになっても喜ばしい。

「そろそろかと思ってな、手紙が来るの」
「ああ、なるほど。ジャストだよ」
「だよな。……何かあってからじゃ遅いんだから、気をつけろよ? 少しでも異変があれば俺に連絡すること」
「はいはい、わかってますよ」

 「簡単に死ぬような女じゃない」と言っておきながら、こうしてまめに私の様子を見に来たり、心配をしたりする。……こんなことを言っていいのかわからないけれど、時々ひどく申し訳ない気持ちになるのだ。きっと善意だとか正義だとかそういうものとは一線を画した、愛情があるから私を気にかけてくれているのだろう。それでも実の母に置いていかれ、父を殺された子供を引き取り、面倒を見させてしまったことに、弟として支えてくれていたことに、負担をかけたのだろうと考えてしまう。
 ……だめだ、手紙が来た日にはどうしても思考回路がマイナスに傾いていく。はあ、と小さく溜息をつきながら、汚れた食器をスポンジで擦り、水に流した。

「希咲お姉ちゃん、眉間に皺よってるよ? お店の人がそんなお顔してたら怖いよー」

 わざとらしい喋り方してるとホント腹立つな……と思いつつ、正論なので眉を下げて「ごめんごめん」と笑って見せた。コナンがぐいっと身を乗り出し、私にしか聞こえないくらいの声量で「あんま思い詰めんなよ」と励ましてくれる。
 あまり自覚してはいないのだが、新一曰く、私は思い詰める癖があるらしい。ギリギリまで抱え込んでパンクするくれぇならさっさとオレを頼れ、よくそう言っていた目の前の少年は、時々私よりも年上なのではないかと錯覚することがある。頼り甲斐のある、いい弟だ。

 さて、私に届いた手紙について、少し説明しよう。遡ること……正確な数字はわからないが、十数年は前のことだ。工藤優作の妹である母は放浪癖があって、私を産んで蒸発し、父は男手一つで私を育てていた。父には頼れる親戚がおらず、大変な思いをしていたようである。しかしそんな折、父はある男に殺されてしまった。母を愛していた、母の昔馴染みの男だった。

花と睡る幻想

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