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 装甲車の無骨な黒い箱が三門市内を走行している。窓はなく、外から中を伺うことは出来ない。両側のちょうど扉に当たる部分に大きなロゴが貼り付けられている。
『DEFENSE ORGANIZATION ―― BORDER ―― MIKADO CITY』
 近界民(ネイバー)の侵攻に対抗し、こちら側の世界を守るために設立された民間組織。通称、界境防衛機関ボーダー。三門の街を守る組織のロゴだ。このロゴが一つあるだけで三門市民はこの車両を見ても怪訝な顔をせず、寧ろ歓迎する。例え、それが武装車両だとしても。
 近界民からの攻撃にも耐えられるようにオーダーメイドされた装甲車は防御力が高く、攻撃されてもそう簡単には壊れない。遠征艇を無理やり車に作り変えたようなものだ。門(ゲート)誘導システムが内蔵されており、本部のシステムが捉え損ねた門や近界民を警戒区域である旧東三門や放棄区域に誘導することが可能だ。他にも本部と遜色ない通信システムまで内蔵されているので、移動式のボーダーと言っても過言ではない。
 ボーダー本部開発室のエンジニア達がレゴブロックやトミカで遊ぶ子供のように、大人の本気を見せたせいで他にも様々なギミックが施されている。サイコパスの護送車みたいにカッコイイの作ろうぜ、と誰かが言い出したのが切っ掛けらしい。そのせいで元のキャブオーバー型からかなり変形した見た目の装甲車になってはいるが、一応バン型乗用車なので普通免許でも運転出来る仕様となっている。一般車両と同じ扱いではあるものの、軍用の装甲車とほぼ変わらない戦力を持っているので今のところ三門市外では走行不可となっている。
 この装甲車は隊員に防護を提供しつつ戦場間や後方との間を移動する、いわゆる『戦場のタクシー』だ。現代の日本で『戦場』と呼ばれる場所は三門市くらいだろう。こうしてボーダーの持っている技術を全て詰め込んで出来上がった、夢の詰まったボンドカーのような特別車両は現在、防衛任務の終わった隊員の送迎ついでにパトロールも兼ねて市内を巡回している最中だった。
 近界民が来たおかげ、とは言いたくないが、それでも三門市の犯罪発生率は四年前とは比べ物にならないほど減少している。ボーダーが三門市に齎した影響は大きい。更にパトロールとしてボーダーの抑止の目が終始、街中を監視していれば犯罪を犯そうと思う人間は居ないだろう。
 上層部は警察に恩を売る絶好の機会が出来て満足しているし、車両のギミックや免許などに関してはその辺お互い持ちつ持たれつでやって行きましょうと外務・営業部の大人達が上手いこと交渉したらしい。メディア対策室もこれ幸いと乗っかった。何せ、カッコイイ車からカッコイイ隊員が出てきてカッコ良く近界民を撃破して市民を救うのだ。メディアが食いつかない訳がなかった。
 こういった大人の思惑も勿論あるが、単にロスタイムの削減という意味も大きかった。偏に防衛任務と言ってもその範囲は広く、主に門誘導システム稼働範囲内である警戒区域内をA級隊員が、他の三門市全体をB級隊員がシフト制で担当している。とくにB級隊員は担当区域が本部と離れた場所にあるので、現着までの時間を短縮するのにこの車両で担当区域に向かう事が多い。A級1位太刀川隊の隊長、太刀川慶は「俺もあのカッコイイの乗りたい」と上層部に盛大に駄々を捏ねたらしく、本来であれば必要のない区域での送迎を要請している。A級馬鹿の駄々があまりに執拗いので、上層部が先に折れた。


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