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 そんな経緯もあって、今日は午後シフトの市内防衛が入っているB級3位生駒隊の4人を乗せ現地へ向かい、同場所で午前シフトを担当しているB級10位諏訪隊の3人を拾い、本部へ戻る途中に太刀川隊の3人を拾う予定だ。生駒隊と諏訪隊が入れ違いになる形だ。
 銃手(ガンナー)兼運転手(ドライバー)を務める羽柴斎は、後部座席モニターと本部・生駒隊オペレーターの細井真織に現着の知らせをそれぞれ送り、スピードを落とした。運転席と後部座席が区切られているので、走行中、運転手と隊員達が顔を合わせる事はなく連絡手段はモニターと音声通信が主だ。車両が完全に停止し、バックドアが開きスロープが出ると生駒隊の面々の賑やかな声が聞こえてくる。

「やっぱ、この車めっちゃカッコイイよな。テンション上がるわ」
「かっこええのは分かりますけど、ちょっと窮屈ちゃいます?外見えへんから余計に」
「防弾仕様やから、そこはしゃーなしでしょ」
「外見えない方がテンション上がるっすよ!なんかこうワクワクする的な!」
「海はよう分かっとるやん」
「駄弁ってやんとさっさと引き継ぎしいや!」

 生駒達人、水上敏志、隠岐孝二、南沢海の4人が気の抜けた声で「へーい」と細井に返事をした。生駒が諏訪隊と引き継ぎをしている間、他の面々が羽柴に挨拶していく。

「送ってくれてありがとーな」
「ほな防衛任務、行ってきますわ」
「あざっした!」

 羽柴はそれに手を振り見送る。水上が思い出したように振り返り羽柴に声をかけた。

「帰りは歩いてったらええ?」
「いや、夜勤入る前だから迎えに来れるよ。どうする?」
「ほな頼むわ」
「Gotcha(了解)」

 羽柴と水上は同じ学年、同じクラスで仲がいい。やり取りは軽快で業務連絡ほど堅苦しくない。羽柴はボーダーから支給された端末に生駒隊の予定を組み込んだ。

「こちら羽柴。諏訪隊と合流。本部へ戻る途中、太刀川隊を拾います。8回も送迎要請入ってちゃ流石に無視出来ない」
「……すまないが、拾ってやってくれ」

 呆れた声で羽柴の応答に答えたのは太刀川の師匠である本部長・防衛部隊指揮官の忍田真史だ。

「羽柴、了解」

 本部と通信を切ったタイミングで諏訪洸太郎が羽柴に声をかける。

「迎えサンキュー、ガンナッツ・ドライバー」
「お疲れ様です、コウくん。言うほどガンナッツじゃないってば」
「銃型トリガー触りたくてボーダー入ったヤツが何言ってやがる」

 羽柴と同じトリガーを使う諏訪や、同期でアクション映画好きなB級11位荒船隊の隊長、荒船哲次とはよくこの手の話をするので、これはいつもの揶揄いだ。羽柴をガンナッツ・ドライバーと初めに呼んだのは荒船だったか。銃手でガンナッツ(銃マニア)で運転手だから。荒船の事だ、どうせ『ベイビー・ドライバー』でも見たのだろう。映画の主人公ベイビーとは違って羽柴のお気に入りのバンドはクイーンではなくオアシスだが。どちらもイギリスのロックバンドであるからして、普段、音楽を聞かない人間からしてみればどちらも同じに聞こえるのだろうが。年代が違うから音楽性とか音そのものが全然違うんだよ、と荒船に向かって内心で吠えた。荒船が羽柴をそう呼ぶせいで、同期や周辺にそこそこ浸透したあだ名はB級5位王子隊の隊長、王子一彰の手によってナッツにまで略称されていたりもする。
 諏訪隊が車両に入ったのをモニターで確認した羽柴は、バックドアを閉めて挨拶をする。

「お客様にご案内致します。ただ今ドアが閉まりました。電子機器は電波が出ない設定にして頂くか電源をお切りください。また、お客様が指定されました座席に着席している事を確認して出発致します。お早めにお席にお座りになりシートベルトをお締めください。運転手の羽柴です。本日もボーダー特別車両太刀川隊経由ボーダー本部行き装甲車をご利用頂き誠にありがとうございます。当車両は出発の準備を全て整え、これより太刀川隊を経由しボーダー本部へと向かって参ります。それでは快適な陸の旅をお楽しみください」

 隊員達は快適とは言い難い窮屈な箱の中に詰められているし、羽柴も同じような道を何往復もさせられている。これくらいのお巫山戯がなければやってられない。放棄区画に入り劣化したアスファルトのせいで若干の揺れが出たが、それでも気にならない程度だ。早く太刀川隊を拾って本部に戻り休憩したいと思っていた羽柴を切り捨てるかのように、上空に門が開いた。

「あー、こちら羽柴。門を目視で確認」
「太刀川隊を向かわせるか、諏訪隊が対処するか、羽柴さんが対処するかになるけど」

 羽柴の応答に答えたのは本部長補佐の沢村響子だった。

「最後が一番手っ取り早いですね。自動運転に切り替えますが、遠隔操作どうします?」
「とりあえず自動運転で」
「羽柴、了解」

 この装甲車には自動運転の他に、通信で本部と繋ぎ遠隔操作が出来るようになっている。装甲車のナビには三門市全体の通路は勿論の事、市内の各所に設置された罠(トラップ)や、道路に埋め込まれたAIチップを認識し手動運転から完全自動運転に切り替える事も可能だ。
 羽柴は自動運転に切り替え、助手席に置いていた散弾銃(ショットガン)を手に取った。窓を開け身を乗り出し、片手で狙いを定める。人の目が多い市内であれば無茶な事はあまり出来ないが、ここは放棄区画だ。多少、無茶な事をしてもボーダーは容認する。門から出てきたトリオン兵の数は3体。
 アメリカのレミントン・アームズ社が開発したレミントンM870をモデルとした散弾銃トリガーは羽柴の愛銃であり今は身体の一部だ。ポンプアクション式ショットガンの定番として幅広い用途で使用され、工業製品としての銃ではあるもののアメリカ警察でも採用されるくらいには性能や信頼性が高い。そこに羽柴のトリオン量の多さが加わるので通常弾(アステロイド)にしては一発ごとの火力が大きい。
 因みに、諏訪隊が使用しているものは銃身を短くし集弾範囲を広くする事で、室内戦や出会い頭に特化させたソードオフタイプとなっている。散弾時30から50メートルを有効射程に置いているので、この距離なら余裕だった。
 動いている車の中から不安定な体勢で、動いているトリオン兵を確実に撃破するのは難易度が上がる。だが羽柴はただの銃手ではない。本人は否定するがガンナッツが故に銃の扱いに関しては頭一つ抜きん出ている。散弾銃から放たれた高火力の弾丸は3体のトリオン兵を撃ち抜いた。

「迎撃完了」
「トリオン兵、トリオン反応共に消失を確認。他に異常は?」
「何もなし」
「了解。回収班を向かわせます」

 後部座席モニターで様子を見ていた諏訪が「ほんとに俺と同じトリガーかよ」とボヤいていた。羽柴のトリガーはメインにアステロイド:散弾銃・アステロイド:拳銃(ハンドガン)・シールド・グラスホッパー、サブにアステロイド:散弾銃・スタアメーカー・シールド・バッグワームが入っている。諏訪のトリガー構成のフリー部分に拳銃とグラスホッパーを入れた形だ。グラスホッパーを入れている分、諏訪より機動性があるが今回はメインの散弾銃のみを使用した。散弾銃の他に拳銃があるのは、諏訪が言った通り銃型トリガーを触りたかったからだ。羽柴がミリオタを拗らせてボーダーに入隊したガンナッツだという事は割と有名な話である。
 アメリカのコルト社が開発した軍用自動拳銃M1911タクティカルをモデルとした拳銃トリガーは、こちらも散弾銃同様モデルに忠実で大口径弾を使用しておりストッピング・パワーが非常に高く、信頼性も高い。1911年の開発当時から設計が変わらない伝統的な拳銃であり、アメリカ警察が用いる他にスポーツや狩猟用としても使用されている。それだけ信頼性のある銃でありながら、自分に合ったカスタムパーツを付け加えられるのも魅力の一つだろう。A級5位嵐山隊の木虎藍が使用しているものには下部にスパイダー射出用のパーツが追加されている。羽柴の使用している散弾銃や拳銃は実銃を殆どそのまま再現しているので、そういった変更点は余り見られない。
 ボーダーのトリガーは銃手に限らず、どれも使用者が一番使い易いようにそれぞれ工夫がされている。偏に本部開発室のエンジニア達の努力の賜物あってこそ。戦う武器がなければ戦場に立つことすら出来ない。トリガーにしろ、装甲車にしろ、戦闘員は皆エンジニアを尊敬している。
 羽柴もその内の1人であり、開発室の事を最高の名誉としてブレッチリー・パークと勝手に呼んでいた。『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』で実際に撮影が行われもした聖地。第二次世界大戦中にイギリス軍が最高機密基地に選んだ場所であり、イギリスの超一流の暗号解読専門家達がここでナチスのメッセージを解読し、敵の動きを事前に察知しようと奮闘した。エニグマ暗号機がなければ、パソコンやスマホといった我々が現在、当たり前に使っているインターネットは開発されなかっただろう。
 それと同じでボーダーがトリオンの開発をしていなければ三門市は攻撃され尽くされ、荒れ果てた土地となっていたに違いない。

「トリオン量の差かな。火力でゴリ押ししただけで何の工夫もなかった」
「うっるせー!」
「あー、お客様にご案内致します。まもなく太刀川隊との合流地点に到着します。一時停止の際、少し揺れる事がございます。今一度シートベルトがきちんと締められているかご確認くださいますようお願い致します」

 門出現という予定していないイレギュラーがあったせいで数分遅れの到着となったものの、無事に太刀川隊と合流する事が出来た。

「ドンパチやってたんだって?」
「……8回」
「なにが?」
「慶くんが要請入れた数」
「来てくれないと思ったから!」

 元気いっぱいに言うんじゃあない。太刀川の後ろで羽柴に何度も頭を下げているのは、ボーダーでトップクラスを誇る射手(シューター)の出水公平だ。

「羽柴さん、マジすんません!やめといた方がいいって言ったんすけど」
「成程。出水は乗りたくないって事か」
「そうは言ってない!乗せてください!オラ、唯我も頭下げろっ」

 出水に頭を鷲掴みされているのはコネでボーダーに入った唯我尊だ。新しく太刀川隊に銃手が入ったと聞いた羽柴が、唯我に何十もの風穴を開けてトラウマを植え付けた過去がある。お互い何も知らなかったのだ。唯我がコネで入った事を、羽柴がミリオタを拗らせてボーダーに入隊したガンナッツだという事を。それが悲劇を招いた。
 そのせいもあるのか唯我はまともに羽柴を視界に入れようとしない。出水と唯我のチンピラとそのパシリのようなやり取りはいつもの事なので、羽柴もそれには触れず「早く乗って」と太刀川隊の3人を急かした。ここでグズグズしていると羽柴は何時になっても昼休憩に入れない。バックドアを閉め、いつもより荒い運転でボーダー本部に戻った。


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