美男子と煙草 - 太宰治
しんしんと降り積もる雪を何時間も眺めている。時刻はとうに日付を越し、草木も眠る、なんて言われている時間になってしまった。息をする度、肺に突き刺す冷たい空気を吸い込んでは、温(ぬる)くなった二酸化炭素を吐き出している。口から出る白い息が月の輪郭をぼやかして、全てを曖昧にさせた。手先の感覚が徐々に失われていくのも気にせずに、太宰は地面を睨むようにして立っていた。
「ねぇ、斎。私はね、凍死こそ最も美しい自殺方法だと思うのだよ」
全てを包み込んで、真っ黒な過去を雪で覆い尽くし無かったことにする。
「月を見上げながら雪の中で眠るというのは、余りにも素敵すぎて死にたくなってしまうだろう」
「もし、その月が雲に隠れてしまったら、その時は、死なないで呉れるのかしら」
「……暗闇の中、一人で死んでいくのは恐ろしいからね。その時は、そうだね、私の傍に居てくれるかい?」
「やぁ、よ。私、まだ死にたくないもの」
「困ったなぁ。これじゃあ、私は何時になっても死ねないじゃないか」
ああ。生きて行くという事は、嫌な事だ。
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