ウイスキーに溺れる - クラピカ
クラピカとこうして情事に耽るのに、何か御大層な理由があるのだろうか。ホテルの浴室でシャワーを浴びながら考える。私と彼の、どうしようもない悪癖は、いずれ最悪の形で終わりを迎えるのだと思う。
私とクラピカは恋人にならない。なれない、の方が正しい気もするけど。生きている事に楽しみを見つけられない私と、復讐の為に生きている彼。それでも、クラピカは優しい。だから、きっとちゃんと捨ててくれる。私としては、何も言わず、何も言わせず、何も思わないまま終わりたいんだけど。彼はそれを許しはしないだろう。
情事後の気怠さを拭いきれないまま、服を着る。彼はベッドの上で本を読んでいた。小難しい、理屈ばかりが並んである退屈な話。人が死なない話。怖い大人が出てこない優しい話。クラピカは、そういうのを好んで読む。私はそれを横目に、カウンターからウイスキーを取り出してグラスに注いだ。一口飲んで、ベッドへ上がる。
「ウイスキーは、シャワーを全く浴びないで、香水を大量に振りまいてる女性みたいだ」
本を閉じた彼は、私の髪を弄びながらそう言った。彼が口にするジョークは洗練されていて、下品な感じが全くしない。そういう所が、彼の見た目によく似ていると思う。性別を感じさせない顔や声。そんな事を言うと、彼は眉間に皺を寄せて怒るのだろうけれど。彼の怒った顔は嫌いじゃなかった。ただ、あの目。あの目だけは好きになれそうにない。赤と紫が混じったような、あの緋の色は、はらわたの色だ。そこに美しさという価値を見出した人間は、きっと、はらわたの色を知らないまま生きてこれたのだろう。
「私、香水ってあんまり好きじゃないの。どれだけ良い香りをさせたって、結局のところ、人の本性までは隠せないでしょう?」
「香水そのものには、悪意はないんじゃないか?」
「ウイスキーにも、悪意はないと思うけど?」
サイドテーブルに置いたグラスを手に取って、態とらしくウイスキーを飲む。
「明日の朝、頭が痛いと言っても知らないからな」
言葉だけだと随分ぶっきらぼうにも聞こえるが、彼の表情は慈愛に満ちていて、泣きたくなった。明日、目が覚めたら彼にこう言おう。
「チョコレートシェイクにメロンソーダのリキュールを少し入れる夢を見たの」
なんて。意味の無い言葉だけが、私たちを救う。そこに、愛がなかったとしても。
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