恋とか呪いとか - 忍野メメ


 いきなりで悪いんだが、少しおじさんの話に付き合ってくれないか。まぁまぁ。そんな顔しないでくれよ、阿良々木くん。いや、何。話というか、愚痴といった方が正しいんだが。まぁ、兎に角だ。
 僕がこうして持て余して、手遊びして、遊びすぎて元の形が分からなくなる位には、愛しちまってる羽柴斎という女性について、少しばかり言葉を積み重ねていこうと思うんだが。罪、套ねていこうと思うんだが……
 おいおい、そんなに邪見にしないでくれよ。然しもの僕も傷つくぜ?おじさんはデリケートで寂しがり屋で、しかもこういった話には人一倍、敏感になるんだから。
 腹の足しにもならないって?そんな大声を出して。元気いいなあ、阿良々木くん。何か良い事でもあったのかい?そういえば、ツンデレちゃんとのデートは上手くいったのかな。まぁ、その話はまた今度にしよう。時間のある時に、いくらでも付き合ってやるからさ。
 今回ばかりは、僕が語る番だ。たまには、こうして役割をシャッフルしないと、読者に飽きられるからな。一芸だけではファンは着いてこないんだぜ?さっさと本編へ移れって、阿良々木くん、君はそんなに僕の話が聞きたかったのか。そうか、そうか。なら、期待にお答えしなきゃだな。では、早速。

 僕は羽柴斎という人間を愛している。熱いものを口に含む時、必ず息を吹きかける行為のように、僕は斎を愛している。それが、さも当然とでもいうように。アルコールランプがふと消えたときの時間の真空を、僕はお前に感じているんだ。何かが欠けている事は、僕に安心感を与える。僕はそういう捻くれたヤツなんだ。知っているだろうけれどね。救いを待つように、餌が与えられるのを、僕はずっと期待している。例え与えられたものが残飯だとしても、この世の全ての汚いものをかき集めた塊だとしても、僕はそれを喜んで頬張り、もう一度、もう一度と、頬を揺らして頭を垂れるだろう。敗北主義が鋭利な刃だと信じて疑わない斎は、美しい。人はそれを、狂気と呼ぶらしいが。彼女は乱反射する罵声を掴み取って、内ポケットに押し込んで、忍ばせる。そうして、ここぞという時に爆発させる。それは、とても静かで僕以外は誰も傷つかない。収束していく点に体を捩じ込もうとする斎は、これ以上、何も失うものなどないのに、もはや失うことを失おうと、両目を塞ぐ。

「もう、どうしようもないの」

 いつも、いつも、どんな時でもお前は、わざと間違えようとするね。そんな彼女に、何が言える?優しさで苦しむくらいなら、いっそ。そうして快楽の種を摘み取る。罪を、取る。選び取る。飛び交う流砂の中から、ひときわ輝く蝶を見つけ出すのが上手い彼女は、ハリボテの蝶を愛するのが上手い。誰よりも上手い。僕も斎も本物を必要としていないのだろう、結局のところ。だからかな、お前は誰よりも美しいよ。体のどこからどこまでが自分なのか、昼食を食べながら考える斎の横顔は、酷くぼんやりしていて、食べ終わる頃には四肢を義体にしようと思い至る。お前はいつも、そうやって、わざと間違えようとするね。斎は昼食を食べ終わると、いつも花を見る。花を見て、親のない子供の姿をイメージする。それが終わると、今度は尊大な態度の衛生兵をイメージする。暫くすると、彼女は「種を植えるね」と言う。その時の表情が、堪らなく美しい。僕はこの、信頼が皮膚に馴染んでいく瞬間が、殊更に誇らしく思っている。羽柴斎、お前はいつだって美しいね。僕はお前があまりに美しいから、愛しているんだ。例えその美しさを僕が壊したとしても、きっと愛し続けるんだと思うよ。なぁ、きみ。これをなんて言うか知ってるかい?


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