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洋食屋フリイダムでは、今日も今日とて、厨房の中はカレーの匂いが充満している。サクさんが仕事の合間にここへ寄ってはカレーを食べ、子供たちの様子を確認しにやってくるのだ。私は私で、父の残した仕事を熟しつつ、ここの手伝いをしているという訳なのだが。
この店に変な男がやってきた。髪はボサボサで前髪は伸び放題、片方の目が包帯で隠れている。それ以外にもケガが多数ある。が、そんなマイナスイメージを簡単に吹き飛ばせるほどの美男子。
その美男子がカウンターに座り、辛い辛いと泣きながらカレーを食べていた。ここフリイダムのカレーは、およそ人に食わせる気がないだろうというくらいに辛いのだ。最初に忠告したというのに。ただのアホだ、こんなものを食べるなんて。だからこれを平気な顔をして食べているサクさんの味覚、および脳の中枢神経は、おかしくなってしまっているのだと思う。
話が逸れたが、とにかく店に変な男がやってきた。どうせこいつもポートマフィアの一人だろうとアタリをつけた。私のことを知っていたし、なにより、カウンターに座るとき一瞬だけ見えたホルスターが、一般人でないことを表していた。
「ねぇ、斎ちゃんはこのカレー食べたことある?」
「イーエ」
「そう。一度食べてみるといいよ。物凄く辛いから」
「ソーデスカ」
「ねぇ一緒に心中しない?」
「品川心中なら」
私の返した言葉が気に入ったのか、クスクスと笑った。笑った顔もまた、なるほど頭のよさそうな美男子である。
「落語かぁ。滑稽な最後も悪くないかな」
「どうぞお好きに。もうすぐでサクさん来ると思うんで」
「ならそれまで私とお喋りでもしようよ」
「はぁ」
この太宰治とかいう男。相手をするのが面倒になるくらい、油断も隙もない。ただの会話ですら緊張が走る。裏の人間のこういう所は、路地裏生活を思い出させる。
あそこでの暮らしに慣れてしまうと、時間と思いやりと驚く能力を失う。ある日を境に、他人の意見なんて大して重要じゃなくなる。それと、ここでの生活における自分の居場所に居心地が悪くなる。
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