01
「今、死にたいですね」
またノエルの口癖だ。セドリックは目を閉じて太陽の熱を感じながら、無感動にその言葉を聞く。もう、慣れて、驚きもしない。頭以上に体がノエルの言葉に慣れている。
コンクリートのホームは母親のように温かい。日差しの中で目をつぶっているせいで、視界は赤と緑がまざったような奇妙なものになる。目を閉じているのに視界と呼ぶのかはわからないけれど。
ノエルの言う「今、死にたい」は「死ぬほど楽しい」みたいな強調の表現でしかない。だから、ノエル・カルガリーという女子生徒に自殺願望があるわけではなくて、彼女は彼女なりに幸せというものをわずかに反社会的な言葉で表現しているだけのことなのだ。
セドリックもノエルがそう言いたくなるぐらい幸せなら、それはいいことだろうと思う。
だから自分も相棒の男子生徒として付き合っているのだ。
マグルの田舎のさびれた無人駅を訪れて何もせずに帰ってくること、それがノエルの趣味だった。駅の写真を安物のカメラ(マグル製品だ)で撮影したら、後はひたすら時間を無駄に過ごす。無駄と無意味は違う。むしろノエルの中では無駄は贅沢に近い言葉だ。そんな何もしない贅沢に同じ学年だったセドリック・ディゴリーはボディガードとして各地へ連れまわされていた。といっても、幸い闇の魔法使いなどと戦う機会はなかった(あってはならないことだろうけれど)。マグルの世界は学生が駅で寝転べるぐらいにはまだまだ平和らしい。
夏休みの日曜日、二人はマグルの移動手段を乗り継いでコッツウォルズにやって来た。場所はオックスフォードとウスターに挟まれた中間点という微妙な位置にある。そんなところで、五年生と言うべきか六年生と言うべきか微妙な時期にある二人が無駄に時間を費やしている。
ノエルはゆっくりと加速してホームから離れていく列車をカメラで撮影すると、跨線橋にあがって駅を眺める。セドリックは待合室のベンチに座って、ノエルが戻ってくるのを待っていた。無人駅ではないらしく駅員はいるようだが、学生の貧乏旅行をどうこうするつもりはなさそうだ。時刻表には一時間の帯ごとに一本の電車が昼間のうちはきれいに並んでいる。逆方向の電車もしばらくは来ない。この駅は自分とノエルだけに占拠されるのだろう。
- 1 -
*前次#
ともだち同盟 トップページへ