02
跨線橋を下りると、ノエルは深呼吸を一回してから、ごろんとホームに横になった。両手を広げた姿で。慣れたセドリックもそれをどうこう言うつもりはない。着ている服が土で汚れても後ではたけばいいし、ノエルが来た目的はどうせコレなのだから。
ノエルは晴れた日に閑散とした田舎の駅に行くと、たいていごろんと横になる。それがノエルいわく、バカンスなのだ。
「ほら、ディゴリー、君も横に来て下さい」
ノエルは古いコンクリートの上をぱんぱんと叩く。セドリックはノエルから1メートルほど離れたところに陣取ると、頭が来るあたりの土を軽く払い横になる。目が空を向くと、夏の光に熱せられて、宙に溶け出していくような気分になる。起きながら夢を見ているよう。意識が膨張してはみ出している。
そして、セドリックはノエルの「今、死にたい」を聞くことになったわけだ。「じゃあ、死ねば」なんて冗談でもセドリックは言わない。言葉は繰り返すうちに蓄積して呪いになってしまう。かといって「死なないでほしい」と本気になっても場は白けてしまう。残った選択肢は何も答えずに黙っていることだけ。ノエルが咎めないのだからそれが正解なのだ。
しばらく、二人は無言で空を仰いでいた。八月に入ったばかりの日差しはきらきらと輝きを放っていた。そこには生命を育む不思議な力があるように思えた。
意識がぼうっとして眠ってしまいそうなところにノエルの手が腕に触れてきた。ノエルはいつの間にかセドリックの手に顔を近づけていた。
そのままキスだってできそうなぐらいに。
「何かついてる?」
「手相を見ているんです」
五秒ほどにらめっこでもするみたいに気難しい顔で手のひらを見つめてから、ノエルははじけるように笑った。人が大勢いる中なら変な人間だが、幸いそんな笑い声を聞いているのはセドリックしかいない。
「そんなにおかしい?」
「ディゴリー、すごく生命線が短いですね。これじゃきっと来年あたりで死んじゃいますよ」
「縁起悪いなぁ。人の生命線で笑わないでくれよ」
- 2 -
*前次#
ともだち同盟 トップページへ