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 葬儀のあいだ部屋の中は死の空気で溢れていた。立ち話が出来る雰囲気でもないので、セドリックはなかば埋まっている椅子に座った。すぐ前の列に先に座っているチョウの背中が見えた。おいおいと声をたてて泣いている女子生徒もいたけれど、セドリックは涙腺がゆるむところまでしかいかなかった。むしろ、泣いている女子を見て、白けてしまった。さほど仲が良かったわけでもないのに泣きはらしている。やっぱり、涙は自分のためのものでしかありえないのだ。涙でほかの誰かを幸せにすることはできないのだから。
 セドリックだって悲しくないわけがなかった。泣いてすむならとっくに泣いている。でも、その何倍もセドリックは怖かった。ノエルが死ぬ前日、自分は彼女に会って話をした。もし、自分がノエルを拒んだことがその死に結びついているとしたら。でも、答えは二度と出てこないし、誰かに尋ねることもできない。
 時たま、セドリックはチョウのほうに目をやった。親友の死らしく、厳粛に泣いていた。顔を隠すみたいに目にハンカチを押し当てて、ゆっくりゆっくり涙を流している彼女のことを、セドリックはなぜだか偉いと思った。やがて友人代表がお別れの言葉を告げる時間となった。チョウが亡霊のように前まで歩み出て、小さな紙を開いた。

「ノエル、まだ心が落ち着きません。突然のことすぎて、どう言っていいのかわかりません。でも、まずは、ありがとうと言わせて下さい。私の笑顔のうち、半分くらいはノエルが作ってくれたようなものです。どんなことでも全部笑いに変えてしまう力がノエルにはありました。だから今、ノエルのせいで、悲しい気持ちにさせられていることが信じられません。入学当初から今まで、あなたはずっと私の素晴らしい先輩であり、親友でした。そして、これからも。いつまでも、いつまでも。ノエル、どうか私たちを見守っていて下さい」

 涙声も出さずに気丈にチョウは大役をつとめた。感情は誰が死んだときにでも使えそうな形式的な文句に隠されて見ることができない。いや、のぞき見しようとするものではないのだ。セドリックはチョウの背中に一本の剣が入っているような想像をした。
 思っていた以上にあっさりと式は終わってしまった。もっと厳かなものだと思っていた葬儀は最後までコントじみていた。葬式という名の作業によってノエル・カルガリーの最後の尊厳まで奪われた気がした。葬式なんてするものじゃない。


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