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 セドリックは葬儀の後、天文台に寄った。そして、ノエルが落ちたという現場の前に立ってみた。誰かと面会するみたいに少しだけあごを引いて。
 ホグワーツの生徒のあいだですぐに事故か自殺かのつまらない論争が始まった。遺書が見つかっていないとか、あんなところで身を乗り出すわけがないとか、証拠のないところで無益なやりとりが続いた。もっとも、数は自殺派が圧倒的だった。事故現場にはちゃんと柵がかかっているから、落下などありえない。つまりノエルは学習以外のなんらかの特別な目的で天文台に立っていたことになる。
 きっと、そのとおりなのだろう。自分のあずかり知らぬところで、ノエルは深く傷ついてしまった。この世に生きていられなくなるほど。そして、その傷はもしかしたら自分がつけてしまったものかもしれないのだ。
 強い風がふきつける。まるで来る人間を遠ざけようとするみたいに。セドリックはそれに逆らって柵の上からゆっくりと顔を出した。日の光を反射し輝く湖の水面がすぐ近くに見える。ノエルはこんな光景を目にしながら死んだのだろうか。
 不意に涙が一滴落ちた。と思ったところに、また落ちた。また、また、また。間を置かずに、涙はぼたぼたと逃げ去るように落ちていく。

「ノエル、ノエル……」

 もう号泣と言ってよかった。悲しみより先に涙が出る。後から悲しいと分かる、そんな感じだった。いや、悲しいのかは分からない、本当に分からない。ノエルが死んだらしい場所に来たら、とにかく泣きたくなってしまったことしかわからない。
 もしかして、ここにノエルの魂が残っていて、それが自分を変にさせてしまうのだろうか。ううん、人のせいにするのはやめよう。すべては自分に原因があるのだ。ここには葬儀の部屋と違って自分の知り合いが誰もいないから、涙に点数をつけられる心配がないから安心して泣けるのだ。やっぱり自分はノエルのために泣きたかったのだ。ノエルのためだけに泣きたかったのだ。

「ずるい、ずるいよ、ノエル。あれだけ僕のことを振り回してさ、いきなり死んじゃうなんて。僕は、どうしたらいいんだよ。僕らは、どうしたらいいのさ」

 ……カランコロンと鈴が鳴った。そんなものあったっけ?ふと、ポケットに目がいく。そこにはノエルのくれた玉の入っていない鈴。まさか、この鈴が鳴っているのだろうか。ノエルはこれは魂がこめられた時にだけ鳴るだなんて言っていたけれど。


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