新しいスニーカーを買ったので旅をしたくなった。どこまでだって歩いていける、そんな気持ちにさせてくれるスニーカーはなんて愛おしいんだろう。色は黒で底は厚め、制服にもぴったり似合うし、私服にだってよく似合う。ただ普段の日常で使い始めるのはもったいない気がしてまだ履いていない。どこか、特別な場所に行く時に履きたいんだよね、と言うと、悠仁はまるで悪戯する子供のような、たいそう楽しそうな顔で笑った。
「名前さ、ディズニーランド行きたいって言ってたじゃん」
「行きたい!行ったことないの」
「今度の火曜日、行こ。俺ら休みでしょ?」
「え!?本当に?」
「本当ほんと」
「…さいこう!本当に楽しみ!!」
「五条先生がチケットくれたんだよね、名前と一緒に行ってきたらって」
「嘘でしょ…五条先生…なんて生徒思い…感謝…」
「なんか任務の御礼でもらったらしい」
「どんな任務なの」
「わからん。…釘崎と伏黒にはナイショな、もらったこと」
「ふたりと五条先生にいっぱいお土産買ってこようね」
「おう」
「晴れますように!今からてるてる坊主作る!」
「俺も作るわ」
わたしなんかそれはもう気合を入れて新しい服まで買ってしまった。春色のスカートにシンプルなブラウス、ベージュのカジュアルなトレンチコート。まだ少し寒いので40デニールのタイツ、初めておろしたスニーカー。春の香りを身に纏って春の色でメイクを仕上げる。なんだかいつもよりもいい感じ!
そう、季節は春、イースターのイベントがやっている時期。この何日間か、任務の移動時間に、家に帰ってから、ずっとディズニーランドについて調べていた。アトラクションもいいけどショーが見たい。え!?ショーって抽選式なのか。悠仁の方が運が良さそう。悠仁に抽選してもらおう。ファストパスはどれを取りに行こうかなあ。悠仁が乗りたいアトラクションに合わせよう。絶叫系好きそうだ。高専に来てから、こんなにわくわくすることがあっただろうか。毎日まいにち楽しみが少しずつ積もっていって、今日、わたしは新しい靴をおろして外に出た。暖かい春の日差しが燦燦と降り注いで、優しい風が吹く。誰かを呪う暇なんてないくらい、今日を楽しめそうだ。
東京駅から二十分弱、舞浜駅を抜けてモノレールに乗りこむ。わたしはその時点で既に吊り革のミッキーに歓喜する。
「悠仁、吊り革がミッキーなんだけど」
「泣きそうだけど大丈夫なの?」
「わたしの地域、昔ヤンキーがミッキーを池に落としたせいで中学の修学旅行でディズニーランド行けなかったから、感慨深くて」
「治安悪すぎない?」
「東海地方の都市伝説だよ」
「俺は中学の時修学旅行で行ったわ」
「やば、プロじゃん」
「二回目だからね!?」
「ねえねえ、お揃いでカチューシャつけようね」
「えー恥ずいじゃん」
「おねがい、悠仁」
「わかったわかった」
入り口をくぐった瞬間から別世界だった。外の世界から切り離されたようにみんな自由だ。春の景色が眼前に広がる。花壇の上のオブジェはみんなピンク、黄色、ペールグリーンを身につけてまるでパーティだ。
「ねえ!ミッキーがいる!!ミッキー!」
これが噂のキャラグリ!わたしは走るか走らないかぎりぎりの速度でミッキーに駆け寄って写真を撮ってもらった。
「わたし、これ、ラインのアイコンにする…やばい…」
「超いい笑顔」
スマートフォンのわたしはなんとも幸せそうな顔でピースをしている。もっと気の利いたポーズなんていくらでもあったはずなのに、結局たのしい時ってピースしちゃうんだなあ。
「ファストパスとりにいこ、それで、ショーの抽選ね」
「おっけー」
「これとこれアプリで読み込んで…悠仁、お願い!当てて!」
「いやーこれめちゃくちゃ確率低いらしいよ…あ」
「…当たった、悠仁、強い」
「もしかして俺運いいかも」
「さすが千年にひとりの逸材」
「言い方!!」
「とにかく悠仁天才!ショー、いい位置で観れるの嬉しすぎる!」
「名前がこんなに喜んでるの珍しいな」
悠仁がスプラッシュマウンテンに乗りたいと言ったのでそちらの方へ向かう。途中チョコレートのいい匂いがしたのでポップコーンを買うことにした。
「ねえこの入れものちょう可愛いんだけど」
「あーかわいいじゃん、似合いそうだな」
「じゃあ、すみません、入れ物もください」
ミルクチョコレート味のポップコーンを食べながら待機列に並ぶ。わたし、この話、知ってる。たしかウサギと熊の話だ。壁画を眺めながら進んでいく。
スプラッシュマウンテンで軽く濡れたけど晴れていたので気にならなかった。出口のところで写真を見たらひどい顔をしたわたしとばっちりカメラ目線の悠仁が並んでいて、思わず写真を買った。悠仁やっぱり天才じゃないの?なんであの状況でカメラ目線ができるの。これはわたしの部屋に飾ろうと思う。次のファストパスを取りに向かう途中で、カチューシャを買ってないことを思い出した。恋人とふたりでディズニーといえば、お揃いのカチューシャでしょう。
「悠仁はこれが似合うよ!」
「えーまじで?」
「わたしが買うからつけて!」
「名前はどれがいいの?それは、俺が買うわ」
「んー、じゃあお揃いにしよ」
そこらじゅうにある屋台でわたしと悠仁はお揃いのカチューシャを買った。うさぎ耳、しかもピンク!
「ちょう似合ってる」
「褒められてる?それ?」
「褒めてるよ!悠仁脚力すごいしほんとうさぎみたい」
「名前は、寂しかったら死にそうなタイプのうさぎって感じ」
「なにそれ、メンヘラじゃんわたし」
「ごめんごめん、冗談だって、可愛い」
「さらっとそういうこと言うよね!?」
悠仁が当ててくれたおかげで視界がクリアな中パレードを見ることができた。メインストリートの近くのパン屋さんで軽くお昼ご飯を買う。キャラクターの形をしたパンは、なんだか食べてしまうにはもったいなくて、何枚も写真を撮った。
「ね、一緒に写真撮ろ、パンと一緒に」
「いいねそれ」
「変顔しないでよね」
「真面目な顔するわ」
「やば、悠仁の真面目な顔がもはや変顔なんだけど」
「ひどくない!?」
「はい撮るよ、笑って」
「この写真良くない?」
「あはは、悠仁かわいい」
「うさぎ耳気に入ってきたわ」
太陽の光も手伝って、いい感じに盛れた。うさぎの耳をつけた時はあんなに乗り気じゃなかったのに、今じゃすっかり馴染んでいる。
そのあと、プーさんのハニーハントに乗って、スペースマウンテンに乗って、野薔薇と伏黒と、そして五条先生にたくさんお土産を買って、夜のパレードを見るために道路の上に座っている。いろいろ調べてくれたみたいで、わたしが好きなキャラクターが目の前で止まる位置でわたしたちは待っていた。陽気な音楽が流れて、緩い夕闇の中、パレードが始まる。
網膜にLEDの光が焼きつく。ピンク、水色、ライトグリーン。暗闇とのコントラストが幻想的で、別世界なんしゃないかと錯覚してしまう。蝶の翅がついたキャラクターが踊るたびに歓声があがる。フロートの上からミッキーがわたしに向かって手を振ったような気がするので、わたしも全力で手を振り返した。ここで織り成されるすべての事象が輝いていた。
「楽しかったー!!」
「名前、ずっと楽しそうだった」
「悠仁のおかげ、ぜんぶ悠仁のおかげだよ」
「はは、俺運いいっしょ」
「ショー当たるなんて思ってなかったもん!」
「…名前、これ」
「ん?」
「今日の記念」
「…もうだめ、わたし今日誕生日とお正月とクリスマスがいっぺんに来たのかもしれない」
悠仁の手にはイースターでしか見ない、わたしがさっき可愛いと言ったうさぎのキーホルダーが握られていた。しかもお揃いで買ったと言う。わたし、このキーホルダーを一生大切にする、大人になっても大切にする。何年後になっても、わたしの持ち物と似合わなくなったって大切にする。ふたりともキーホルダーを寮の鍵につけて、一緒の場所に手を繋いで帰る。反対の手にはお土産を抱きかかえて。春の少しだけ冷たい風に吹かれながら、楽しかったねと笑いあいながら歩いていく。新しい素敵なスニーカーはわたしをどこへでも連れて行ってくれそうだ。
でもね、わたしね、悠仁と手を繋いでいたら裸足でだってどこにでも行けるよ。右足左足右足って交互に前に出して、この地獄をお散歩しようね。
ねえ、次はどこに行く?
20200225
連載完結してないけど新しいシリーズを始めてしまう〜!!許してください、このシリーズ書くの楽しみです!!虎杖くんと一緒に行きたいところ無限にある〜!!!!
ディズニー詳しくなくてアレですみません、、、ノリで読んでください、、、。