アイ ミス ユー


 太陽が燦々と降り注ぐ八月の東京、新宿駅を野薔薇とふたりで歩いている。明日中学の同窓会があるけど、何着て行ったらいいかなあ、わたしが野薔薇に相談したら、楽しそうだから選んであげると行ってわたしの部屋に来た。どれもイマイチね、今から買いに行きましょう、でも暑いのは嫌だから新宿でいいかしら。確かに、新宿なら駅から一歩もでなくても買い物ができるな。ルミネエストとかなら、ちょうどいいかな。そして新宿駅の地下からキラキラとしたレディース服売り場に野薔薇とふたりで乗り込んだ。

「大人っぽい感じがいいかなあ」
「名前はそっちの方が似合うと思う」

 大人っぽいといっても様々な形の大人っぽいがある。ナチュラルな感じの大人っぽい、東京駅を歩いてそうな大人っぽいとか。日本語は一つの言葉に様々な意味を内包していて難しい。
 野薔薇が選んでくれた服は、普段ならあまり着ない、ギャル系のブランドの黒いタイトなミニワンピースだった。ボトルネックでノースリーブ、スカートのサイドには少しだけスリットが入っている。可愛い。けど、わたしが着るにはちょっと大人っぽいんじゃないか。こういうのをいい女風とでも言うのだろうか。

「これ…?」
「絶対に似合う」

 野薔薇がそう言ってくれるなら。わたしは試着室で、着てきた服を脱いで、そのワンピースを着た。思ったより悪くない、というか、さっきまで着てた服よりも似合ってる気がする。

「…野薔薇、どうしよ、これかわいい」
「ほらね、言った通りでしょ」

 少しだけ自慢げな野薔薇に笑顔でありがとうと伝える。隣で店員さんも、たいへんお似合いです!夏は肌出してなんぼです!と褒めてくれたこともあり、そのワンピースを買うことにした。店員のお姉さんに、髪型はどんなのが似合いますか、メイクはどんな感じがいいですか、アドバイスをもらった。
 付き合ってもらったお礼にパンケーキを食べにきた。生クリームがたくさん乗ってる有名なお店だ。

「強めメイクってどんなの」
「アイラインがっつりマスカラがっつり、涙袋もちょっと濃い色のアイシャドウ使ったら大丈夫」
「…なるほど」

 何かの呪文か?と思ったが、わたしも一応女子高生なので、七割くらいは分かった。マスカラとアイラインをがっつり。がっつり?よくわからない。とりあえず最大限に濃いメイクをしたらいいのかな。
 そんなこともパンケーキが運ばれてきてしまえばどうでも良くなって、わたしたちは可愛い!これが都会のパンケーキ!と叫びながらスマートフォンでぱしゃぱしゃと写真を撮った。美味しかったのは最初の数口で、最後の方はふたりとも無言で食べ切ることになったけれど。


 寮に帰って、買ってきた服を身につけた。やっぱりスカートが短い。でも可愛い。今のメイクにアイラインを足して、オレンジ色の口紅を塗った。なかなか大人っぽくなったんじゃないだろうか。野薔薇はさっきのパンケーキが相当きたようで、部屋で寝ている。悠仁、いるかなあ。悠仁に見てもらおう。
 新しい服って、なんでこんなにわくわくさせるんだろう。今までとは違う自分になれたような気がして足が軽くなる。

「悠仁ー?いるー?」
「はいはい、名前?」

 ドアを叩くと悠仁が出てきた。あ、驚いた顔してるな。部屋にお邪魔する。いつも通りベッドを背もたれにして足を横にして座り込んだ。

「…どしたの、その格好」
「明日、中学の同窓会行く服、野薔薇に選んでもらったの。どう?」
「似合ってるけどさ」
「けど?」

 いつもの悠仁みたいな快活さがない。歯切れの悪さを感じる。舌が強張ってるようだ。

「同窓会ってさ、男もいるの?」
「いるよ」
「なら、その格好は絶対だめ」
「え!?似合ってない?」
「いやだから似合ってるってば、さっき言ったじゃん」
「…言ってた」

 悠仁、なんか怒ってない?目を合わせてくれない。絶対、褒めてくれるとおもったのに。大切に水を変えていた花の花びらががある日急に茶色くなっているのを見つけたみたいな気持ちになった。

「わかんない?もっと危機感もってよ」
「…スカート、そんなに短いかなあ」
「短い」
「可愛いのに」
「かわいいから言ってるんだけど」

 他の男に見られるのが腹立つの。
 相変わらず目は合わせてくれなかったけど、隣に座っている悠仁の耳が赤かったので笑ってしまった。悠仁、怒るの下手だね。言っとくけど、俺超怒ってるからね!とむくれた顔をするが、それすら可愛い。

「ねえ、じゃあ二人の時はこの服着てもいい?」
「…いいけど、部屋の中だけにして」
「そんなに見られたくないの?」
「明日だって、行って欲しくないけど…って、あー、言いたくなかった、こんなこと」

 束縛してるみたいでダサいじゃん、そう言って顔を抑えている。わたしは、どうかな。悠仁が昔の同級生の女の子と会うの、嫌かな。もし昔悠仁のことを好きだった子がめちゃくちゃ綺麗になってて、中学の時に虎杖くんのこと好きだったんだよ、とか言い出したら。嫌じゃないと言ったら嘘になるけど。

「わたし、これから先たくさんの人に出会うよ」
「…うん」
「でも、どんな人に出会っても、わたしは毎回悠仁を選ぶよ、絶対」

 馬鹿にしてもいいけど、笑わないでね。きっとこれから一年で五十人くらいの男の人とは出会って話をして名前を知るでしょう。昔の知り合いと再会することもあるでしょう。そのうち何人かは何回か会って、友達になるかもしれない。それでもわたしの一番は悠仁だよ。絶対なにがあっても悠仁だよ。

「名前がそう思う男が、俺で最後だといいのに」
「…最後の女にしてよね」
「俺がこんな風に思うの、最初で最後だから」

 明日は、ワイドパンツとかにしよう。一緒に選んでくれた野薔薇には申し訳ないけど。
 大人っぽくなったわたしを昔のクラスメイトに知ってもらいたいなってちょっと思っていた。今のわたしはみんなと違う勉強をしているけど、元気だよって姿を見せたかった。でも、昔の同級生達と話していてもたぶんわたしと交わる未来はない。それで、どうせ、悠仁にすぐ会いたくなる。終わったらすぐ帰ってきて悠仁の部屋に来よう。わたしのことちゃんと待っててね。何回だってこの部屋に帰ってくるから。



20200315
アイ ミス ユー


いただいたリクエストは虎杖悠仁に怒られる、でした!露出度の高い服を着て怒られる話、ずっと書こうとおもっていたので形にできてよかったです。ありがとうございました!!