「あしたはなんの日でしょうか」
「明日?」
唐突な質問に面食らった。名前の誕生日はもう終わったし、俺の誕生日は冬だ。ほかに、何かこんな質問をされるような日があっただろうか。そういえば、記念日は…。
「はい、時間切れ、正解は野薔薇のお誕生日でした!」
「…釘崎の誕生日か」
「野薔薇あんまり自分の誕生日言わないよねえ、八月七日産まれって花の日じゃない?わたしすぐ覚えたんだけど」
なので、野薔薇にケーキを作ろうと思います!手伝って!
彼女は満面の笑みでそう言った。ケーキなんて作ったことない、と白状すると、わたし実はお菓子作り得意だから大丈夫、と胸を張っていた。
「虎杖の方が料理上手いし、あいつと一緒に作った方がいいだろ」
「いや、虎杖くんにはご飯全般作ってもらうんだよね。わたしと恵でケーキ焼いてる間に談話室の飾り付けするの」
「…なるほど」
「今から虎杖くんと三人で買い物行こ、暑いけど」
「わかった」
虎杖の部屋に寄って、三人でケーキの材料、談話室を飾り付けるリボンと折り紙、ああだこうだいいながら夜ご飯の材料、それに釘崎への誕生日プレゼントを買った。名前があらかじめ釘崎へのプレゼントは決めていたらしい。白い花束と、釘崎が好きだと言っていたブランドの口紅。向日葵も良いけど、野薔薇には白が似合うと思うんだよね。わたしは向日葵が好きなんだけどね。そう言いながら白い薔薇をメインにした花束を名前は選んだ。
名前と虎杖は夜ご飯をなににするか最後まで悩んでいたが、結局ハンバーグを作ることにしたようだ。虎杖は、ハンバーグ作るのちょう得意!と言っていた。素直に尊敬する。
寮に帰って、何故か俺の部屋で三人で集まって飾りを作る。俺と虎杖が折り紙を切って、名前がそれをまるめて繋げていくことになった。
「なんで俺の部屋なんだよ」
「伏黒の部屋、広いじゃん」
「同じ広さだろ」
「なんか恵の部屋広く感じるよね、物が少ないから?」
他愛もない話をしながら、釘崎の話をしながら、手を動かす。気がつくと大量の飾りができていた。
明日は名前が夜はご飯に行こう、と誘っているらしい。釘崎は、昼間は買い物に行くそうだ。
明日は朝からケーキ作りだからね、と念を押して名前は部屋を出て行った。部屋には自分達で作った飾りがあちこちに転がっている。
部屋の色が騒がしくて落ち着かない。ただ、まあ、たまにはこんな夜もいいかもしれない。今日は、暑い中歩き回って、疲れた。いつのまにかベッドの上で眠りについていた。
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砂糖、卵、それにバニラエッセンスをぐるぐるとかき混ぜるのを眺めていた。俺はといえば、卵を割るのを失敗したせいで名前に生クリーム泡だてて、と言われてしまった。まるで戦力外通告をされた気分だ。生クリームは冷やしながら混ぜればいい、簡単だった。名前はバターと牛乳、それに薄力粉を入れて再度生地を混ぜ合わせていく。そして、生地を型に流し込んで予熱したオーブンに入れた。
「うまくいくかなあ」
「大丈夫だろ」
スポンジが焼き上がるまでの三十分、談話室の飾り付けをする。黒板に野薔薇お誕生日おめでとう、とポップな字体で名前は書いていった。どう?と聞かれたので釘崎は喜ぶと思うと答えた。彼女は花を黒板に描き足していく。黒板の花束に、リボンと手作りの飾りで彩られた部屋は、高専の中でここだけ別の空間みたいだ。白とピンク、キラキラしたリボン。もう一度名前に、釘崎は絶対喜ぶと思うと伝える。
「よかった、ちゃんとできてる」
名前の部屋に帰ると、殊更に甘い香りがしていた。名前はオーブンからスポンジを取り出し、型から取り外すと、ふっくらと焼き上がったスポンジがあった。甘いものはあまり好きではないが、美味しそうだと思った。
「すごいな」
「これを横に半分に切って、フルーツとクリームを入れます!…あ、ちょっと、斜めになっちゃったかな」
クリームを絞って、名前がそれを伸ばして、フルーツを置いていく。全面をクリームできれいに整えたら、薔薇の形をした砂糖菓子をまるで花束のように載せていく。釘崎は花の日に生まれてるので、花束をイメージした、らしい。
恵、クリーム絞るの下手、と言われたが、こんなことに上手いとかあるのか。確かに名前が絞ったクリームはきちんとツノが立っていた。
じゃあわたし野薔薇と待ち合わせしてた場所に行ってくるね、と言って名前は寮を出ていった。
虎杖の部屋に行くと、こちらはこちらで順調に進んでいたようで、あとは煮込むだけ、とのことだった。
「うまそうだ」
「だろ?」
虎杖の指示に従って料理を談話室に運んでいく。これで準備オッケーだな、と笑う虎杖にああ、と答えた。
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「野薔薇、お誕生日おめでとう!!」
「釘崎、おめでとう!」
「…おめでとう」
「昨日こそこそなんかやってんな、と思ってたのよ。…嬉しい、ありがと」
「恵、虎杖くん、あれ歌う?ハッピーバースデー!」
「それはケーキの時でいいんじゃねえ?なあ伏黒」
「何?ケーキまであるの?」
「ちなみに飯は全部虎杖が作った」
「…マジ?」
「本当だよ、野薔薇、ケーキはわたしと恵が作ったの」
あと、これ、わたしたちから。名前は白い花束と口紅を釘崎に渡した。お誕生日おめでとう、再度名前がそういうと、釘崎は少しだけ目を伏せてありがとう、と呟いた。
グラスにシャンメリーを入れて、乾杯の真似事をして、パーティを始める。
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気付いたら夜も遅かった。ケーキには十七本蝋燭を立てて、ハッピーバースデーを三人で歌った。釘崎はそれを美味しいと言って食べていた。ついには五条先生まで来て、全員で写真を撮る。その写真を見て釘崎はもう一度ありがとうと言っていた。名前はようやく安心したような顔をして、笑った。その顔を見て、俺も安心する。
シャンメリーとコカコーラで酔っ払ったような絡み方をしてくる釘崎を名前は部屋まで送っていった。わたしの部屋で待ってて、そう言われたので大人しく名前の部屋にいる。まだ、ケーキを作ったあとの甘いにおいがする。名前からは、いつも甘い香りがする。
「恵、待っててくれてありがと。今日楽しかったね、野薔薇喜んでたし、よかった」
「もうケーキは作りたくねえ…」
「わたしが想像してた十倍くらい恵は不器用だった、あ、でも生クリーム作るのははやかったよ」
「うるせえ」
「…あ、日付変わった。ねえ恵、わたしたち付き合って一年経ったの」
「…覚えてたのか」
「忘れたと思ってた?恵と付き合った日、忘れるわけないじゃん。恵こそ覚えててくれたんだね」
一年間ありがとう、これからもよろしくね。そう言って彼女は冷蔵庫から手作りだと思われるコーヒーゼリーを取り出した。もう夜遅いけど食べてくれる?と聞かれたので頷いた。甘さは控えめにしてあるからね。いつだって名前は、まるでなんでもないことのように、自分の好きなものより他の誰かの好きなものを優先している。本当は彼女は苦いのは苦手なはずだ。…そんな名前のことを俺は大切にしたいと思ったんだ。一年前から。いや、本当は一年ともう少し前から。
今日だって釘崎のために。釘崎にあんな穏やかな顔をさせられるのは、彼女くらいだと思う。俺は名前に何かできているだろうか。
俺の部屋には名前が好きだと言った向日葵の花束が置いてある。それを渡したら、彼女は少しでも嬉しいと言って微笑んでくれるだろうか。彼女のために選んだ花束で、笑ってくれたなら、それはとても嬉しい。
20200228
花束を
あまり料理できてなくてすみません、というかご飯ではなかった、、、伏黒恵くんが卵割るの下手だと可愛いなあと思いました、、、!
素敵なリクエストありがとうございました!