「くっ、くうかいっ。はやすぎ……」
走り始めて数分後。
木に手をついてぜえぜえと息を吸う。
心臓がばくばくいって、顔が熱い。
こてんぱんとか無理だった。
というかよく考えればヤツはサッカー部のエース。
二学年下の女子生徒に負けるわけはなかった。
「くやしー…」
今日は負けたけどいつか泣かそう。
今から走って行っても追いつけないばかりか、後ろから空海が来て二周遅れ三周遅れになりそうだ。
ここで待ってればまた空海が通るだろうから、そこで負けましたって宣言をしようかな。
もう足が痛くて走れそうにない。明日は筋肉痛になる。絶対。
そんなことを考えているうちに、息が徐々に整ってきて、辺りを見回す余裕が出てくる。
「あれ……これ、なんだろう?」
蔦が絡みついた建造物が前方に建っていることにふと気づいた。
いつも通っている校舎よりも大分古びている。
今の校舎は5年くらい前に新築したと聞くから、旧校舎時代の建物だろうか。
丸いフォルムの屋根。
一見するとなにに使う建物かはわからない。
門のところにはかすれた文字で『特別資料棟』と記されている。
「特別、しりょう?」
立ち止まってしまったせいで寒いし。
この中で空海を待つのも悪くはない、かも。
扉が開いてたらの話だけど。
少し躊躇ってから両開きの扉を小さく押してみる。
扉は簡単に開いた。
建物の中とはいえ、暖房も効いてないので寒いんだろうなという予想に反して、中はホッとするようなぬくもりに包まれていた。
紅茶のものらしき匂いまで漂ってくる。
誰か、いるのだろうか。
真っ暗い室内。
怖がりなややはいつもならここで尻込みして見なかったことにする。
だけど。
何故だろう、今日はとても気になった。
出口を開けておいて退路を確保しつつ。
そろりと中を覗き込む。
規則的に配置された椅子と、天井に瞬くたくさんの光の粒。
ここは、もしかして。
「プラネタリウムだよ」
穏やかな男の声だった。
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