廊下を歩いてると途中の洗面所のドアが開いていたから覗き込む。
樹(いつき)おじさんが顔を洗っていた。
バシャバシャと水の跳ねる音が響く。
「おはよー。おじさん」
気づくかなぁ、と思いながら小さく声をかけるとおじさんはすぐにびしょ濡れの顔で振り返った。
「お、やっちゃん。おはよう!」
顔から滴った水が服を濡らしていたのでちょっと罪悪感が湧いた。
ごめんおじさん。
いい匂いが漂うダイニングへ向かうと薫(かおる)おばさんが朝ごはんを作っていた。
おばさんは華麗なフライパン捌きで何かを焼いている。
「おばさん〜おはよー」
「あらおはよう、ややちゃん。
もうちょっとで出来るからね。食器だしといてくれる?」
「はーい」
食器を出しながらおばさんの手元を盗み見ると、今日は目玉焼きのようだった。
しゅごたまが生まれたばっかりでちょっとそれは精神的にきつい。
――なんで、生まれたんだろう?
しゅごたま、というところまで考えた後にそんな疑問が湧いた。
しゅごキャラやしゅごたまはなりたい自分が具現化したもの。
何かになりたいと強く願わなければ、生まれない。
ややはいま、何かに焦がれているのだろうか。
ぼんやりしてると、顔を洗ってたおじさんが戻ってきた。
料理もテーブルに並べ終わって、
おじさんとおばさんとやや、3人でいただきますと両手を合わせる。
当然だけど、ここにいるのは本当のお父さんとお母さんじゃない。
2人はややが小学1年生の時――2年前に死んでしまった。
歌手のお母さんを、作曲家のお父さんがステージに送っていく途中に事故にあってしまったらしい。
ややは学校に行ってて、何ともなかった。
母方も父方も実家とは折り合いが悪かった。
結局引き取り手が見つからなくて、施設に入れられそうになってたややを助けてくれたのが今の結木夫妻だ。
遠い親戚で、会ったことも一度くらいしか無かったのに優しく接してくれて。
おじさんとおばさんがいてくれて良かった。
味噌汁を啜りながらそんな事を考えていると、ややの向かいの席でご飯を食べているおばさんの大きなお腹が目に付いた。
おばさんは今、妊娠している。
それは、とても素敵なことだ。
長らく子供が出来なかった2人にようやく出来た赤ちゃん。
幸せなことだ。
でも……ややは、どうなるんだろう。
おばさんとおじさんに本当の子供が出来たら。
忘れ去られて、しまうのかもしれない。
そんな想像は酷く恐ろしかった。
ふと、今朝見た夢が頭をよぎる。
おぼろげな記憶のつぎはぎみたいな夢。
帰りたい――あの家に。
どこかでぱりん、という音が響いた。
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