今までずっとあった違和感は全て自分の記憶で私は私のまま転生したんだ。もちろん環境も時代背景も全然違う。でも杏寿郎さんは居る。これは夢なのか記憶なのか、目覚めた時に全てを覚えていられるのか解らないまま何かに引き寄せられる
・・・
「む?起きたか・・・どうした、呼吸が荒いな」
名前は目覚めると自分が誰だか何時代だか、女中なのか学校事務員なのか全てが解らなくなってしまい困惑する、情報量が多すぎて処理出来ていないのだ。
「名前、呼吸を整えるんだ!集中。」
「うぅ・・ふぅー、はぁー」
背中をさすられ深呼吸をすると落ち着いてきた。
すぅー、はぁー、すぅー、はぁー
落ち着いたと同時に涙がぼたぼたと流れ出る
ずっと逢いたかった人にやっと逢えたんだ、私は起きても杏寿郎さんを覚えていた・・・!
「きょう、じゅろう、さんっ!逢いたかったよぉ」
「急にどうした!体調はどうだ、寝ているだけとみて俺の家に連れてきたが何があった?」
「うっう、杏寿郎さん、杏寿郎さんっ!」
「うむ、怖い夢を見たんだな。大丈夫だ、もう怖くない」
杏寿郎はぎゅうぎゅうと抱きつく名前を無理に離そうとはせず背中を撫で続けている
一方名前はただただ泣きながら杏寿郎の名前を呼び感触を確かめ実在することにまた涙しを繰り返していた、彼女が落ち着いたのはそれから三十分程してからだった。
♢
「あの・・・本当にごめんなさい。」
「謝ることはない、千寿郎も怖い夢を見たときはああなるぞ。」
「・・・たくさん抱きついてしまって、」
「気にするな、君の目の前に居たのが俺でよかったと思ってるぐらいだ。だが男の車で寝てしまうのは関心しないな、気をつけるといい」
「はいっ、気をつけます…」
目の前には愛しくてやまない杏寿郎さんがいる
口から今世でも愛しています!と言いそうになったが、いくら前世で愛し結ばれ来世の約束をしたとして、きっと目の前の彼は前世の記憶はない。私が怖い夢を見たのだと本気で思っている。
記憶が無い彼に今の状況を説明したとして、真っ直ぐな人だから信じてくれるだろうけど。だからまた愛し合いたいというのは如何なものか。
ふと顔を上げるとこの部屋に全く見覚えが無いことに気がつく、ホテルのように整えられているわけではないし煉獄家のように和室でもなかった。
アパートの一室にしか見えない。
「あと、ここは何処でしょうか?」
「俺の住んでいる家だ」
「家?ここ杏寿郎さんのご実家じゃないですよね?」
「正しくは賃貸だな!君と一緒に行ってたのは生家だ。あちらにも頻繁に顔を出している」
「そ、そうですか…ここに運んでくれたのは杏寿郎さんですか?」
「うむ!君は羽のように軽いな!」
羽のように軽いは言い過ぎだけど、気にするなという彼の優しさなんだろう。
こ綺麗にされた部屋には歴史の本がたくさん並んでいて彼の歴史愛が伝わってくる。どんな状況でもやっぱり情熱を持てる人なんだ、そう思うと一層愛しさが増してしまう。
「女人が来て楽しいところではないだろうが、今日は少し話をしたくてな。外の方がいいだろうか?」
「いいえっ、大丈夫です!」
声が上擦ってしまった。
杏寿郎さんがあまりにも艶っぽく問いかけてくるから心臓のドキドキが止まらないし、今日は色々ありすぎて全く頭が回らない。。
「お話とはなんでしょう?」
「回りくどいのは苦手でな、単刀直入に言う。君が好きだ!俺と交際しよう!」
「ひっ!え!」
賃貸だけど大丈夫?と思うぐらい急に大きな声を出されて吃驚してしまったが、どうやらこれは告白なのだろう。あの時とは随分様変わりした雰囲気だがやっぱり杏寿郎さんは急な人だなと少し笑ってしまった。
それでも素直に受けれない問題がある、杏寿郎さんは前世の記憶が無い。だけどさっきまでの私みたいに少し前世の名残りを出している節があった、それに引っ張られたのではないか。
これだけ素敵な人だし、生徒の人気だけが高いわけじゃない。モテるはず。昔と違って今は沢山の選択肢がある、記憶が無いなら彼は前世には囚われずに自由に生きてほしい。
・・というのは建前で本当は一緒にいたい、お付き合いしたい、杏寿郎さんとまた愛し合いたい。
どう言っていいかわからず言い淀んでいると自信に満ち満ちていた杏寿郎さんの顔が少しづく曇っていく。
「確認していなかったが、恋人はいるのか?」
「あ、いえ居ません・・・でも・・・」
「でも、なんだ!」
心に決めた人が居ます、貴方です。とも言えずにまた黙ってしまった。これ以上不安にさせたくないし、悲しそうな顔は見たくないのに。
「少し、考えさせて下さい」
「少し、とはどれくらいだ?」
しばらく沈黙が続いた
私の言葉を待っているのだろう、そう・・私がこの人以外を選ぶ選択が出来ない。それが答えだ。
「杏寿郎さんは・・・前世って信じますか?」
「唐突だな!前世とまでは言わないが君のことは遠く昔から知っているような気がする。名前に興味を持ったのも最初はそんな些細な事だ。
だがそんなもの些末な理由だ、君を知り共に居たいと思った。他の丁年に触れて欲しくないと思うほどに君を好いている」
心を打たれた、心臓が震えた
私は一体何に怯えていたのだろうか・・・この人はまた私を真っ直ぐに想ってくれている。
それを真摯に受け止めずに試すようなことばかりして、最低だ。
「長くなりますが、私の話を聞いて頂けますか?」
「聞こう!君の意を知りたい。」
まだ思い出して時間も経っておらずまとまって居ないが杏寿郎さんなら大丈夫だ、意を決して話し始めた。鬼狩りの炎の一族の話を
・・・
「よもや、信じられないと言いたいところだが俺も眠っている間にそのような夢を見たことがある。それに観篝の焔色も煉獄の伝承の話まで君が知ってるとは考え辛い。」
「急にこんな事を聞いて、私のことを気持ち悪いと思いますか?怖くは・・・なりませんでしたか。」
「逆だな、やはり君とは魂で結ばれているとしか思えなくなった。」
「私って欲深くて、杏寿郎さんに他の道をという選択肢だってさせてあげられたのに・・!私はっ、私が一緒に居たくてこの話をすると決めたのです!相も変わらず貴方を愛してしまった」
杏寿郎さんの目の奥がリンと輝いた
ぼろぼろと泣き出す私をそっと抱き締めて首筋に顔を埋める。柔やわとした髪の毛が頬に触れて少し擽ったくもある。
「来世でもその先でも君を愛しこの魂が続く限り名前と生涯共にすると誓おう」
「・・・!!」
「忘れていたようですまない、全てを思い出したわけでは無いが魂に記憶はあるようだ」
「きょう、じゅろうっさん・・・」
「前世では子に恵まれなかったが、今世はどうだろうか?仕事も安定しているし、君を養うことも出来る。勿論名前が成し遂げたい事があるなら応援もする!・・・・それに、もう命の危険は無い」
「は・・・はいっ、また共に居させて下さい・・!」
そのまま口づけをした。初めてのときと同じような熱く深い。
♢
「俺が冀求した、死ぬ間際に“出来れば名前も一緒に連れて行きたい”と、一種の呪いだな。愛する妻の死を望むなど言語道断、俺に記憶が全て戻らないのはきっとその呪いの跳ね返りだろう。人を呪わば穴二つ、とよく言うからな!」
杏寿郎さんらしからぬ発言に驚いてしまう
真っ直ぐで誠実な彼にそこまで想われる程の魅力を自分には感じられない。
「杏寿郎さんでもそんな風に思うのですね、少し驚きました」
「君は俺を嫌いになって、怖くなったか?」
先程の私の言葉を重ねられ思わず笑ってしまう、そんなわけが無い。きっと逆でも欲深い私は同じことを思ってしまっただろう。
「俺は存外嫉妬深いし、執念深いようだ。きっとまた来世でも君と結ばれるだろう」
貴方とまた出逢えるのであればきっと何世先でも幸せに満ちている、だけど今世はきっと長い。
ゆっくり一緒に歳を取りましょう、そしてまた来世も
Fin
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