立待月




自由に生きてみたいと思っていたのは、私は物心ついた時から籠の中に居て“自由”の発想が乏しかったから。友人作りも制限されて行儀作法を厳しく躾けられてきた私にとって嫁ぎ先である煉獄家に来たことは命令であって自由という発想にもならないでいた。
でも、父は私によく考えろと言った。教え込まれてはきたけど自分で考えて行動することは初めての経験なのだ。

「杏寿郎はいつ頃柱になれるのですか?」
「わからないな!だが、遠くは無いだろう!」

生家に顔を出すときは必ず杏寿郎は私と二人の時間を作ってくれる、甘い雰囲気にはならないがお互いを知っていく上で貴重な時間なのは間違い無い。
今までは知る必要無いと聞く事さえほとんどしてこなかったけど、これからは少しづつでもいいから自分の責務を理解していきたい。その上で出来る事をやりたい、この煉獄家で。自由と責務は非なるものではあるけどこの家で己の役割を果たすかは自分で決めること、自由意思で出来ることなのだ。つまりは心から千寿郎と杏寿郎のために何かしてあげたい、明確ではないけど父の言葉を貰ってからそう思っている自分に気付かされたのだ。
その為にはまず杏寿郎と向き合うべきだろう、自分のことも相手にことも知らなければ何も成し遂げることは出来ないはず。

「柱の条件がある、それを突破出来なければならないからな」
「そうですか、それは難しい事なのでしょうか?」
「簡単では無い、だが成し遂げられないことでも無い!俺は必ず炎柱になる」
「……何か私に出来ることはありますでしょうか?」
「うむ、君には千寿郎を頼みたいと思っている。」

何か出来る事など無いとはわかっていたけど、聞かないわけにはいかなかった。それでも杏寿郎は私に千寿郎をと言ってくれたことに驚く。
頼まれなくても千寿郎が立派な大人になるまで見守ってあげたいし、己の才能に自信を持たせて羽ばたかせてあげたいと思っていたからやはり杏寿郎と考える先は一緒なのだと妙に納得してしまった。

「名前が来てから千寿郎は随分と明るくなった、君のお陰だ。」
「私は何もしておりません、むしろ助けて頂いている事の方が多いです。」
「千寿郎の寂しさが緩和されているとわかれば、俺も俺の責務に集中出来る」
「それでも杏寿郎が無事に帰還することが千寿郎の一番の望みですよ」

そう言うと杏寿郎は凄く柔らかく微笑んだ。

「俺は死なないさ、まだやるべき事があるからな」
「それを聞いて安心致しました。」
「何度も言っているが、千寿郎の良き理解者になってくれた事に感謝する」
「助けられてばかりですが千寿郎の良き姉、杏寿郎の良き妻になれるように努力致します。」

やはり杏寿郎とは同志という言葉が最も合うだろう。もちろん私は鬼狩りではないしその方面での同志では無いけれど千寿郎を大切に思う同志としてこれからも共に歩んでいきたい。




・・・




「兄上はまた夕刻に家を出るそうですね。」
「そうなの、だからおにぎりでも握ろうと思って」
「…姉上は兄上とゆっくりして下さい、俺が作りますよ」

杏寿郎が夕刻に出発すると聞いて早々に話を切り上げて炊事場に行く途中で千寿郎と出会した。自分だって兄との時間を過ごしたいだろうに、本当に健気な子だ。

「千寿郎こそ杏寿郎とゆっくりお話しでもしておいで、いつも私ばかりでごめんね」

千寿郎の手をぎゅっと握ると千寿郎はまた顔を真っ赤にして俯く、しまった…また子供扱いしちゃったかな

「俺は、姉上とおにぎり作りたいです」
「本当にいいの?」
「はい、俺も一緒にいいですか?」
「もちろん!じゃあ、行こうか」

予想外の嬉しい言葉に心が躍る、やはり私は千寿郎といれるのが一番嬉しいなと思った。千寿郎との時間を取ってしまい杏寿郎には申し訳無いが私と共におにぎりをと言ってくれた千寿郎を断る気などに更々ならなかった。


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痺莫