関根はふん、と鼻から鋭く息を出した。

「お前のはせいぜいシャーペンの芯レベルだ」

「硬さだったらHってか。俺がエッチだからって、そりゃあ寒いジョークだわ」

「お前は本当に思考が前向きだな」

「え、後を向いて何か得することってある?」

「……どうだろうな」

 飯田はふぅん、と小さく呟き人の悪い笑みを浮かべる。

「悪いことを心の中で繰りかえし上映してる奴ってさ、絶対マゾだと思うな。悲しんでいる自分が気持ちいいからやるんだろ? 痛いの大好きすぎるね」

「さてな。そういうことすら冷静に考えられない程の絶望っていうのが、あるかもしれないだろう?」

 関根はまぶたを伏せる。飯田が彼の頬を指の背で撫でた。

「経験済み?」

「……言わん」

 おやぁ、と目を細めて笑いながら飯田は、関根へ問う。

「じゃあ俺はどうでしょう? 経験済みだと思う?」

 ぎしり、と床が軋んだ。飯田は関根の目を覗き込むようにして顔を近づけている。二人のまつ毛が触れ合った。ゆっくりとまぶたを閉じる関根。

「言ってもいいのか? 俺がお前を何も知らないとでも? 有名な話だろ? 昔、お前は誘拐さ――」

 素早い動作で飯田は関根の口を手でふさぐ。

「俺の捨てた記憶を拾って持ってきちゃってんのかよ。じゃあ駄目、たんま。今のなし。問題は破棄な」

 鼻で苦しそうに息をする関根を、にたにたと笑いながら見る飯田。その目がきらりと光った。

「それよりさぁ、やっぱ駄目かね。流石の俺も待ちくたびれて萎えなえちんちんなんだけど」と言いながら彼は、腰を関根へぐりぐり擦り付ける。


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