顔をよじり、飯田の手を振り払って、関根はチィ、と吐き捨てる。

「じゃあそのまましまえ。俺は――」

「好きな奴じゃないと本番はしないって? それもう聞いたし。大体、注入も全戯も本番だろうにさ。どこからどういう風にしてそこ区切ってんの?」

 無邪気に尋ねる飯田へ、関根のやれやれ、というため息がかぶさった。

「挿入前は単なるじゃれ合いだろ。挿入後はもうセックスだ」

「えーそうやって分けるの面倒くさい。もうそこは流れでやっちゃおうぜ。お前も男ならわかるだろ? じゃれ合ってから、さて挿入って思って息子がギンギン準備オッケーの状態で、ごめんできないって言われる時の悲壮感」

 思い返すように視線を上げ、まぶたを閉じ、また開くと関根は眉を顰めながら口を開く。

「そんな状況になったことがないからわからん」

 飯田は嬉しそうな声で囁いた。

「童貞?」

「違う。付き合った相手とのセックスしかしてこなかったからな。拒否したこともされたこともない」

 ええ? と眉を顰める飯田。

「でもさ、付き合ってた時でも急にそんな気分じゃなくなったわぁ、とか言われたことないの?」

「言われたことがありそうな口ぶりだな……それはお前の前戯が下手糞だからじゃあないのか? それとも、向こうがお前を本当に好きではなかった、とか」

「あうっ。その解釈は痛い。傷つくよ関根君」ショックを受けたように唇を尖らせ、穴を掘って埋まりたいくらいの衝撃だぞ、と呟く。

 関根は、のしかかっている飯田の胸を今一度、己の胸で押し上げようとする。しかしやはり動かず、口の中で糞っ、と悪態をつきながら唸った。


- 66 -

*前次#


ページ:



ALICE+