ああ、目が覚めた。携帯電話が振動している。確認すると、康太からメールだ。

 ――鳥井から風邪もらったから今日休む。って、そりゃあさ。病人にキスしたからでしょ。

 大きく伸びをする。背骨が軋んだ音を立てた。

 窓の外は晴天かな。どうだろうか。あれ、おかしいな。視界がぼんやりしている。

 何だろう。水の中みたい。水槽の中から、外を眺めているような違和感。

 そうか、これは夢。これが、夢。

 夢だったんだ。よかった。本当によかったなぁ。

 夢ならまだごろごろしていようかと思ったのに、親に叱られて結局は学校へ向かう羽目になってしまった。

 通学路を歩いていると、後ろから鳥井さんの声が聞こえてきた。

「ああ、追いついた! さっきから呼んでたのに全然気づかないんだもの。一緒に学校行こうよ!」

 にこやかに微笑まれたので、顔を思い切り顰める。

「やだよ。一人で行けばいいじゃん」

 鳥井さんが一瞬で硬直をした。その後、戸惑うような表情を向けてくる。

「ど、うしたの? いきなりそんな邪険な……そっか。康太に気を遣ってるんだ? 大丈夫だよ、康太はやきもちなんて――」

「僕、鳥井さんのこと、ずっと嫌だったんだよね」

 静かに言う。

 まぶたを見開き口を閉ざしてゆく彼女へ思い切り、悪意の篭った視線を向けてやる。

 ずっと、ずっと。僕は我慢をしてきたんだ。夢なのに、ね。馬鹿だったよ。

 これが現実じゃあないならば、別に我慢する必要なんてどこにもない。

「え? だって、三人であんなに楽しく――」

「楽しんでたのは鳥井さんだけ。僕は嫌だったし、康太だってさ、本当は鳥井さんを好きじゃあないんだよ、知ってた?」

 ――現実の康太は僕を好きなんだもの……あれ、そうだったかな? いや、現実の康太は単なる友達か。彼氏は彼方だもの。でも、もう、いいや。どうせこれは夢だから。

 鳥井さんが唇を戦慄かせている。涙をぼろぼろ零し始めた。

 いいよね。女っていうだけで、こうして泣いたら周囲から同情の視線を向けられるのだもの。

「うそ。だって、キスしてくれたんだよ? 何でそんなことを言うの?」

 涙声で言われ、苛立ちが余計に込みあがってくる。

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