「何でってほんとのことだもの。僕は知ってるんだ」

 鼻を鳴らして嘲り笑い、そのまま、泣いている鳥井さんを無視して歩き出す。

「何してんだ?」

 彼方の声が聞こえてきたので振り返ると、僕と鳥井さんを交互に見つめながら戸惑うような表情をしていた。

「何も? 勝手に泣いてるだけだからほっとけば?」

「お前、どうしたんだよ? ええ? そんなに冷たい奴だったか? おい、鳥井、大丈夫?」

「ごめん。何でもないの……」

 って言いながらもさ、そんな風に、長い髪で顔を隠して俯いて。涙をぼとぼと地面に落としてさぁ。

 あざといよ。ねぇ、ほんと、どうなのそれ?

 彼方に睨まれた。

「よくわかんねぇけど、女子泣かしたらいかんだろ。お前も男の端くれとして謝れって」

 無視して歩き出す。

「おい! おーい!」

 何度も呼ばれるけれど、絶対に振り向くもんか。

 三時間目の授業が終わると、学年中に、今朝の事件がもう知れ渡っていた。女子を泣かせた男子として、数々の冷たい視線が突き刺さってくる。ひそひそという話し声に、最低、という言葉が混ざって聞こえてきた。

 そんなものもう関係がない。

 康太にメールを打つ。

 ――学校終わったらそっち行くから、大人しく寝てなよ。

 もう躊躇はしない。我慢はしない。だって、夢だもの。それなら好きにしてもいいでしょ。

 嫌がられても、夢だから傷つかない。何とか押し倒してキスくらいは狙いたいもん。現実の僕と同じように、夢の中の僕だって康太とキスが――あれ、どうして、彼方の顔が頭に浮かぶの?

 何で? この映像は何?

 頭を横に振り、机に頬杖をついて窓の外を眺める。ほら、綺麗な青い、空――に、映る、映像。

 彼方とキスしているのは、僕?

 なんで? どうして彼方と?

 あ、そっか。現実は、彼方が彼氏なんだっけ。

 もう何だかどうでもよくなってきた。

 何がほんとうで、何がうそなのか、そんなものは、もう、関係がなくて。

 だって僕は康太が好きなんだ。凄く好きなんだ。

 僕だけの康太にしたい。誰にもその笑顔を向けて欲しくない。その綺麗な、切れ長の瞳で見るのは僕だけにしたい。

 キスしたい。ふっくらとした唇に、そっと、優しくキスしたい。

 抱かれたいよ。この、僕の、切ない胸を慰められるように……ああ、水だ。

 やっぱり、歪んで見えるね。景色が、さ。

 ぼんやりと教室を見渡してみたら、人の顔が落書きみたいに見えた。

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