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 翌日、喫茶店で待ち合わせをしていた俺達は、二人同時にそこへ到着した。その事を少々恥ずかしく、また嬉しくも思いながら笑と、何故か数馬は渋い顔をしていた。

 案内されたテーブルの上へ肘をつきながら深々とため息をついている。

 ――もしや、また喧嘩をしたのだろうか。

 期待に高鳴ってしまう胸を落ち着かせながら何食わぬ顔でたずねてみる。

「お前、何かあったのか?」

 優しく言葉を掛けながらも心中では、ハレルヤと悪魔の叫び声が響いていた。

 ――俺にしておけ。俺と付き合えばいい。俺が一番、お前を理解している。愛しているし絶対に幸せにしてやる。こんな、曇った表情などはさせない。

 呪文のように口の中でそう呟くのだが、それは外へ出せない禁断の言葉。

 いつもならば、苦笑しながら話を始める数馬。しかし何故だろう。今日はそれどころか顔つきが益々渋くなってゆく。

 静かな沈黙が訪れ、俺の息遣いと彼の発する静かなため息が混ざり合い、耳に届いた。

 一体どうしたのかと首を傾げていると、視線が交わり、彼の表情がいつもの朗らかな笑みに戻ってゆく。

「今日は暑いな」

 と、言いながら、ほんのり熱くなってしまった顔へ手のひらで風をつくり、送る。

 数馬は笑みを深めながら、静かに口を開いた。

「五月に、結婚する事にしたよ」

 一瞬、聞き違いかと思った。いや、そう思わなければと心が勝手に判断させた。しかし彼は言葉を発しながら左手をこちらへ掲げ、その指に光る存在が今の現実を教えてくれる。

 ああ。笑顔が、凍りついてしまった。

 いつかは誰かと結婚してしまうのだと、頭では理解をしていた。しかし心がそれを否定し続けていて……本当に、彼女のものとなってしまうのか。

 もうこれで、永遠に、数馬は手に入らない。

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