舌を吸われ、吸い返そうとしたら今度はこねられ、先をさらりと突かれて、唇を柔らかく食まれる。

 唾液を飲み込む暇も無く口の中を蹂躙されて、飯束の息が即座に上がった。

 閉じなかったまぶたの先に見える井上の、やはり閉じなかったまぶたは微かに震えており、薄かったはずの瞳の色が、記憶していたよりも少し濃く見えた。

 井上の鼻息が頬にかかり、興奮する。もうズボンの前は、痛いほどに膨らんでいた。

 舌を何度もしゃぶられ、内頬までも愛撫されて、飯束は腰を砕けさせた。こんな快楽は味わったことがなかった。気持ちが良すぎて怖くなってきた彼は、首を横に振って井上の唇を避けるのだが、それは許されなかった。

 後ろ頭を掴まれ、これ以上は深くならないだろうと思っていた口づけを更に濃いものとされる。

 舌の付け根が痺れる程に吸われ、唾液で滑りの良くなった唇を擦り付けられ息も絶え絶えになった時、突然それは終わった。

 離れた唇にじんじんと甘い感覚を受け、そこを指でなぞる。

 救急箱から消毒薬とコットンを取り出した井上より、怪我の手当てをされた。
 
「やんない、の?」

 飯束の声は掠れている。

 手当を終えた井上は顔を顰めると、皮肉めいた笑みを浮かべながら口を開いた。

「――もうそろそろ別れたことにしてもいい頃だろう。あいつらにそう言っておけ」

 頭を殴られたような衝撃が襲った。

 唇は震えだし、瞳に涙が溜まってゆく。

 飯束は、井上にすがりついた。もうみっともなくても構わなかった。

 ……ずっと、落としたいと思い、行動をし続けていたのは彼が癪に障るからという理由だけではないことに気づいたのだ。

「い、嫌だ」

 井上の顔から表情が消えた。

 ただ、その色の薄い瞳だけは僅かに光っている。

「どうして嫌なんだ。単なるゲーム感覚で俺へ色々と策略めいた行いをしてきたのだろう? 流石にああも色んなことが重なり続けると、ばればれだ」

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