黙ったまま肉を咀嚼する姿へ、加護の目元が益々緩む。

「おお食べた食べた。リスみたいで可愛いなぁ」

 ふと、野呂がその場へ漂い始めた冷気に気づいた。

 恐々といった風に直太へ視線を向け、ほのかに顔色を青褪めさせる。

「……か、加護。いい加減やめとけ」

「え、何で? いいじゃん。仲良くなってくれって言ったのは直太だぞ」

 肩をすくめる加護へ、野呂が唸る。

「その直太の様子がおかしいから、まじでやめとけ」

 その言葉に三人の視線が、微笑んではいるものの目が笑っていない直太の顔へ集中した。

「おやぁ? 直太どうしたんだね。もしかして嫉妬とかしちゃったぁ?」

 加護のからかう声に、蘭が鼻を鳴らす。

「そんなんするもんか。万が一してたとしてもどうせ今の空気読んで阿呆なことを言い出すに決まって――」

「した」

 蘭の言葉を遮り短く発した直太の声は、とても冷たかった。

 大声で笑いながら加護は、そんな彼の顔を覗きこむ。

「そうだよねーするに決まってんよなーって、え、まじ?」

 嫉妬をしていないという返事をされたと思ったようだが、動かぬ直太の表情を見てそれがすぐに勘違いだったと気づく。

「加護! マジでお前黙っとけ」

 野呂が慌てた様子で加護の後ろ頭をはたく。

 直太の表情は完全に無くなっていた。

 彼は、驚いたように目を見開いて自分を見ている二人へ視線を向ける。

「お前ら二人とも、蘭に構いすぎ」

 そして、蘭へと目を移した。

「お前も何でそんなにこいつらへ笑いかけるんだ」

 困惑の色を大きな瞳へ宿らせる、蘭。

「え? だって直太が――」

「黙ってろ」

 蘭の肩を強い力で引き寄せると、直太はあっけにとられたようにうっすらと開いていた唇を奪った。

 目を見開いて硬直をする蘭の頬を親指で撫でながら、深いキスへと誘う。

 口の中を乱暴に舌でかき回した後、直太は唇の余韻が残るよう、わざとゆっくり顔を引いた。

 しかしそのまま完全には蘭を逃がさず、至近距離で彼の瞳を見つめる。

「お前は俺だけにでれでれしていればいいんだよ!」

 大声を出され、蘭の鼓膜がびりびりと痺れた。頬が真っ赤に染まってゆく。

 見つめ合う二人を見て、加護が慌てた声を上げた。

「ちょ、あの、直太さーん。直太さーん。ここどこだかわかってますかー」

「大声出すのはやばいぞ」

 野呂からも言われ、直太は深く目蓋を閉じた。そして……無かった表情が素早く豊かになる。

「な、なーんちゃって! ほらほら肉、焦げるだろ食えよ!」

 わずかに凍り付いていた空気を解すかのよう朗らかな笑みを浮かべながらぱんっと一度、手を叩く。

 加護が、真面目な表情を浮かべながら直太へと顔を突き出す。

「さすがに今回のは誤魔化せないぞ……なーんちゃって! この感じ流行らせようぜ」

 言いながらすぐに、からかうような顔つきへと変化を見せた。

 何なんだこれは茶番か、とでも言いたげな程に顔をくしゃっくしゃに歪める蘭だったが、テーブルの下より直太から手を強く握られ――強張っていた頬が、緩んだ。





END
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