蘭は黙って頷きながら、まだ膝の上に乗せていたプレゼントの包みを開く。

 箱の中から出てきたのはブランドもののカーディガンだった。しかも、サイズは蘭の身体よりわずかに大きいMサイズである。普段より、だぶついた服を好んで着ている蘭にとってその大きさは有難かった。

「……これ、俺が欲しがってたやつ! 何でわかったの!?」

 小さく歓声を上げた後、驚きながら野呂へとたずねる。

 野呂は、そんな蘭を見て眩しそうに目を細めた。

「ついこの間さ、街中で蘭を見かけてな。そん時ショーウインドー覗き込んで唸ってたろ? 欲しいのかなって思ってね。もしもいらなかったら直太に着させれば済むサイズだし」

「ありがと」

 嬉しそうにカーディガンを胸へ抱きしめ言う。

 野呂の頬へさっ、と朱が走った。

 それを目撃した直太の頬が微かに痙攣し始める。

「お前ら――」

 彼が言葉を発しようとしたその時、店員が料理の注文を取りに来た。

 ぐっ、と声を飲み込みながら直太は、己の頬へ拳を当てて無理矢理笑顔をつくる。

 慣れた様子で肉や野菜の注文をしている加護を、ぼんやりと眺めている蘭。そんな彼をやはりぼんやりと見つめている野呂。そして、三人に視線を向ける直太。

 直太はビールを飲んだ。泡が、自分の喉に張り付いたような気がしてこそりと咳払いをする。

 たわいも無い談笑をしている合間に注文をした肉が運ばれてきた。

 加護が菜箸を使って肉を焼き始める。

 そわそわとした様子であった蘭の皿へ、焼けた肉を乗せた。

「ほら、これ食いなぁて」

 すると野呂が、もう一つあった菜箸を使って他の肉を蘭の皿へと乗せる。

「こっちの肉のがうまそうだぞ?」

 直太の眉が微かに上がった。

「お前ら、ちょっと蘭を構いすぎじゃあないか?」

 いつもよりほのかに低い声を受け、加護は首を傾げる。

「え、ムードメーカーの直太君が何を言いますか。お前も一緒になって蘭を構えばいいだろ」

 野呂も首を傾げながら直太を見つめた。

「あれ? 直太もしかして怒ってる?」

「怒ってないし」

 貼り付けたような笑みを浮かべる直太へ、加護が更に首を傾げる。

「いやいや、不機嫌そうだけど」

「怒ってないし」

 と、同じ台詞を直太が返したその時、二人より渡された肉を口にした蘭は目を輝かせながら口元を手で押えた。

「あ、うまっ」

 加護の目元が緩む。

「おお、うまいかい。そうかい。もっと食べなって。焼く係りは俺に任せろ!」

「いや、俺に任せろ」

 参戦してきた野呂へ嘲るような笑みを届ける。

「そうか。じゃあお前に譲るわ。で、俺は食べさせる係りやるから。蘭、あーんして」

 菜箸でいったん自分の皿へと肉を乗せ、それを今度は個人で使っていた箸ではさみながら蘭へ差し出す。

 反射的に開いてしまったのであろう蘭の口の中へ、肉がひょいとねじ込まれた。

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