今田は何かを思い描くように宙へ視線を漂わせ始める。

「食べた肉をさ、目の前にいる女に置き換えるわけ。あ、こいつのここの部分はカルビだろうなーとか。しかし服を脱がせてみないとそこが上なのか並なのか、わからないってな」

 で、服を脱がせたらばまずはその気になる部分の肉をこう、舌でぐりりっと舐ってみて――と話を続けながら子供のように無邪気な笑みを浮かべる今田。

 相沢は丸めた紙のような形相になった。

「グロい話だな。じゃあ俺はどうなんだよ。肉質は?」

 今田が夢から覚めたような表情を浮かべる。

「男は知らん。興味ねぇもん」

「そ、そうだよな……俺もだ」

 慌てるように同意をした相沢へ、今田が目を細める。

「お前、黒ばっか着てんなよ」

 相沢は黒が好きだった。今の服装もブラックジーンズに薄手の黒い長袖ティーシャツで、上から羽織っている濃茶色のジャケットが無ければ靴も合わせて全身真っ黒だ。

 それに比べ今田は、暗いブルーのダメージジーンズに白ティーシャツを合わせ、上から黒いジャケットを羽織っている。そして首には青スヌードを巻いており、少々軽い印象はするもののお洒落だ。

 相沢が唇を尖らせた。

「ほっとけ。俺は黒しか似合わないんだ」

「今度俺がコーディネイトしたろか」

 今田の声に相沢の頬が上気する。

「ああ、頼む」

「その代わり今日の焼き肉おごって」

 一瞬で落胆したように肩を落とす相沢。

「……金、無いのか」

「無い」

 胸を張って威張る今田へ、相沢は苦笑した。

「今日だけな」

 今田は雑誌を閉じ、首を左右に振りながら顔をくっしゃくしゃにしてはしゃぐ。

「さんきゅー! ああ、早く食いたいなぁ。霜降りがいい。お前は?」

「俺は――筋張って、しっかりとした肉がいい」

 にやりと笑った顔を今田に見せつける。

 ふーん、と軽く相槌を打つと今田は目を輝かせ始めた。

「そんな硬いのがいいのか? 俺はやっぱ脂肪だなー。柔らかいの最高! 舌に乗せるととろけるし」

「口の中でずっと転がすのがいいんじゃあないか。徐々に皮がめくれていって、中身が硬く――」

「骨つき? スペアリブか。まぁうまいけど、硬いんだよなぁ。俺そういうの苦手」

 相沢がそっぽを向いた。

 携帯電話をポケットから取り出した今田は、それで時刻を確認する。

「お、もう五時だからそろそろ焼き肉屋に向かおうぜ」

「早いだろ」

「うまい店があるんだけどさぁ。ここから一時間はかかるから。そしたら六時だろう? 丁度いいじゃん」

「まぁな」

 そっぽを向いたままの相沢を気にする様子も見せず、今田は大きく伸びをしながら椅子より立ち上がった。

「ほら、行くぞ。俺の車でいいだろ――」

「お前、さ」

 言葉を遮り、相沢は座ったまま彼を見上げる。その瞳には真剣な表情が宿っていた。

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