今田はへらりと笑う。
「なんなん? そんなこえぇ顔はお前に似合わんよ」
「いや、お前……男ってどう思う?」
尋ねると相沢は、再びそっぽを向いた。
今田は眉間に深い皺を寄せる。
「俺以外は絶滅すればいいと思う」
「や、そうじゃあなくて……しかし酷いな」
脱力したようになっている相沢の肩を、今田が軽く叩いた。
「まぁお前は隣にいてもいいよ。下僕として飼ってやる。ただし女はすべて俺のものだ」
相沢が素早く立ち上がった。
驚き一歩後退った今田を鼻で笑う。
「お前が俺の下僕だろ。焼き肉奢るのはどっちだと思っているだ」
「へへぃ。相沢様」
へこへこと頭を下げながら両手をこすり合わせる今田。しかしふと気が付いたような顔つきになり、それから目を細めてゆく。
「って、コーデのお礼だろ焼き肉は。取り引きだ、取り引き!」
「今頃気づいたか。本当にお前は鈍い」
あー悪かったですよ、と口の中で悪態をつきながら、今田は顎でドアを指した。
「先に駐車場に向かってて。俺は小便してから行くわ」
軽く頷き、歩き出す。相沢はドアを開いた。
その陰に隠れる瞬間、悲しそうな顔を見せる。
「告白、いつになったら気づいてくれるんだ。本当に、鈍すぎる」
掠れた小さな声は、今田には届かない。ドアを閉める音に掻き消された。
相沢が去ったそこをぼんやりと眺めながら今田は、深くため息をつく。
「ほんと、いつになったら気づいてくれるんだ。俺はダチのままでいたいのに」
頭を乱暴に掻き回し、またため息をつく。
机の上に放り出していた雑誌を鞄にしまうと、ジャケットのポケットから車の鍵を取り出した。
「小便なんて、出ねぇよ。さっき便所に行ったのを見てたじゃあねぇか、阿呆」
彼の小さな呟きも、とぼとぼと寂しげに歩く相沢へは届かない。
駐車場の周辺に生えている木々は綺麗に紅葉していた。
アスファルトの上に落ちている葉をひょいと拾い上げ、相沢は車にもたれ掛かる。
そこへ今田が手を振りながら現れた。
「遅い。そんなに長い小便か」
「ちょっと教授につかまってさぁ。でも三十分くらいしか待たせてないだろ?」
車の鍵を開けて運転席へと乗り込む今田に習い、相沢も助手席へと滑り込むように座る。
「シートベルトしろよ」
今田の声に、相沢が笑った。
「わかってる」
車が発進し、窓に映る景色が流れてゆく。
相沢は、今田の横顔をこっそりと見つめた。
「なぁ。俺ら、こうしてずっと二人で居られるかな」
水のような声がするりと、細く、車内へ広がる。
今田は視線を前へ向けたまま唇をゆっくりと開いた。
「居れるだろ。何たってダチだからな。俺はお前とずっと、いっしょにいたいと思ってるぞ」
窓の隙間から聞こえてくる街の喧騒。
まだ温まっていない車内へ、二人の吐くほんのりと白い息が昇ってゆく。
二人はそれぞれ、違った表情をしながら、別の方向を見つめていた。
静かになったその空間で……今田の腹が盛大に、鳴り――
「やっぱ霜降りだって」
また肉の議論を開始させた今田。
相沢は額を押さえながら天を仰いだ。
END
{emj_ip_0788} 2015 Nosibanodenko

ノンアダ短編集デザイア目次
サイトTOP
- 87 -
*前次#
ページ:
ALICE+