その日に僕と彼はセックスをした。それまでのものは単なる戯れでしかなかったと、その時に思ったね。

 彼はどこからそんな知識を仕入れていたのか。怖くて聞けなかったから、今も知らないままだけれど。ローションで濡れた指がアヌスを出入りするたびに、頭の中の混乱は増していった。身体と心が比例しておらず、濁流に飲まれたようになっていた。

 初めてペニスが入ってきた感覚は、きっと、死んでも忘れられないだろう。そのくらい痛かったんだ。そこは切れたし、中を揺さぶられ、強い排泄感が襲い掛かってきてね。結局それから彼とは何度も、数え切れないくらいにセックスをしたけれど、僕は決してそれでイくことはできなかったよ。終わってから、何の表情も映さぬ目をした彼からこすられて、やっと精液を吐き出すといった感じだった。

 毎回彼から押し倒される形ではあったけれど、僕と彼はセックスをし続けた。狂ったように、何度も何度も。

 どうしてか、キスはしなかった。そういう行為を僕は、彼に引きずられる形でしかしていなかったから、催促されない限り自分からしようとは考えなかった、というか、考えることすらしなかった。自分から動くということを思いつかなかった。また、彼は――何を考えていたのかなんて、わからなかったから……朗らかで、邪気が感じられない笑みしか浮かべないのに、その思考は全く読み取れなかったから、何故僕たちがキスをしなかったのか、その理由は今でもわからない。

 そして、あの日だ。

 目に痛いほどの赤が、部屋の窓から見えていた。

 僕はベッドの上で四つんばいになって。彼が背中から覆いかぶさり、セックスをしていた。

 ちょうど、彼が果てた時。ドアがね、開いて。家を空けていたはずの母が、土産を片手に入ってきたんだ。僕の名前を呼びながら、笑顔で。

 母の顔は、一瞬、ぽかん、としたよ。唇は半開きで、目は見開かれ、土産が入っていた箱を掲げた手は宙で止まっていた。

 僕も、彼も、皆。あの瞬間は同じ顔をしていただろう。

 何秒過ぎたかな。一分は過ぎていないと思う。母が、ずかずかと部屋に入ってきて、枕を掴み、僕と彼を一心不乱といった風にとにかくそれで叩いた。叫んでいた。何で、どうして、何がいけなかったの、どうしてこんなことになっているの、あんたたち、自分が何をしているのかわかっているの。

 耳に、ね。残っているよ。あの、鼓膜が痺れるくらいの罵声。

 身体から一気に血の気が引いた。彼は、ベッドから飛び出すと、母に叩かれている僕をほったらかしてすばやくズボンをはき、上着を引っつかんで部屋の外へ飛び出していった。

 僕は、息ができなくなるくらい、枕で何度も頭や頬をぶたれながら、彼が、窓の外を走ってゆく様を呆然と眺めていた。

 それからは、さ。なんとなくわかるだろう?

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