「いや、あの、セックスがした……セック、シックスセンスがですね――」

「阿呆。そこまで言っておいてシックスセンスだとか誤魔化せるか」

 鼻で笑われた。ああ、そんなところももう……

 全てを口に出せたならば、どんなにか楽になれるだろうか。いいや、この悶えるような愛情もまた、恋愛に味を出すスパイスなんだ。

 瞳先輩が辺りを見渡した。自分もそれにつられる。

 呼び出されて訪れたこの視聴覚室。カーテンは閉められている。外にはきっと、夕日が見えているだろう。いや、もしかしたらもう日が暮れているかもしれない。冬は暗くなるのが早いから。

「友博」

 呼ばれ、視線を瞳先輩へ移す。艶やかに微笑んでいた。

「何でここに呼ばれたか、まだわからんのか」

 瞳先輩が、ゆっくりと口を開いている。唇の裏側がちらりと見えて、胸が高鳴った。

「ど、うしてでしょうか」

「セックスするぞ」

 ああ男らしい。凄い。可愛い。強く抱きしめたい。

 腕が疼く。股間も疼く。けれど固まってしまう身体が恨めしい。

 喉が鳴った。

「抱いても?」

「ああ」

「いいんですか?」

「ああ、いいぞ。むしろ遅いくらいだ」

 瞳。瞳っ。凄いです可愛いです最高です。そんな風に呆れたような笑みを浮かべるその表情がまた、この胸をキュンとさせてくるんです。

 指が震えた。

「で、では、あの――」

「さっさと押し倒せ」

 床の上で組んだ胡坐を解き、立ち上がってゆく瞳先輩を見習い、自分も立ち上がる。

 見つめ合う視線の何と熱いことか。

 学ランの中にはどんな肉体があるんだろう。喧嘩に強い瞳先輩のことだから、引き締まった筋肉があるに違いない。

 手を伸ばす。関節が鳴った。

 指を、頬へ這わせたい。それなのに……駄目だ。もうドキドキしすぎていっぱいいっぱいで。

 また、手を横へ下ろす。

 瞳先輩の眉が吊り上がった。

「てめぇ。俺がこれだけ言ってやってんのにまだ手を出さんのか。ヘタレ野郎」

 吐き捨てるように言われ、闘志が沸く。俺だって男だ。やるときはやる、はず。

 瞳先輩が手を握ってきた。皮膚から伝わってくる体温にまた、心臓の音が大きくなる。

「ほら、さっさと触れ」

 覚悟を決めろ! と己を叱咤して、瞳先輩に誘導されるがまま、手をその頬へと触れさせた。

 ゆっくりと目蓋を閉じてゆく。筋盛にした髪が、微かに揺れた。

「い、いきます」

「言わなくていいから」

 もう何度苦笑されただろう。

 呆れられて、別れを告げられてはたまらない。

 顔を近づけ唇を合わせる。何度やっても慣れないキスだ。

 一度、唇全体を食むと、瞳先輩の肩が僅かに揺れた。

 食んだまま下唇を引っ張るようにして唇を離し、また、合わせる。出てきた舌を舌で掬い取って、こねるように口内へと戻し、唾液を啜り上げた。

 はっ、と瞳先輩の鼻から息が漏れ、それが頬をくすぐってくる。ああ、幸せだ……この舌の厚み。熱。唾液の甘さ。


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