愛しい瞳
ああ先輩。瞳先輩。どうしてこんなに先輩は可愛らしいのでしょうか。
こそりと友人に、市川先輩って凄い可愛いよなぁと零してみたところ、凄い形相で驚かれました。お前、あんなきつい顔立ちの人を可愛いとか言うか!? 茶髪を筋盛にしてて、イケメンなことは確かだけどさぁ。可愛いなんて目ん玉腐ってんだろ! なんて叫ばれて。
確かに先輩は身長が百七十八センチ。俺よりも四センチ低いとはいえ、長身に入るのでしょう。
しかし、しかしです。先輩の可愛さの前ではそんな事実は霞むのですよ。
なんて考えていると、目の前で床へ胡坐をかいていた先輩の眉が吊り上がった。これはまずい。
「てめぇ友博ぉ! その顔は聞いてなかったな!」
拳を握り締めながら怒鳴る瞳先輩。ああ、可愛いなぁ……怒ると頬が赤くなって、目が輝きを帯びるんだ――って、見とれている場合じゃあない。
慌てて頭を下げる。
「す、すみません市川先輩!」
ちっ、と舌打ちが聞こえてきて、恐々頭を上げた。
「そんなだからてめぇはパシリにされるんだ。俺がこうして面倒を見なけりゃあお前、今でもいいように扱われてたぞ」
胡坐を組みなおす瞳先輩も可愛い。長い足がまた、可愛い。
この学校にいるヤンキーグループのリーダーである先輩から、ヤンキー達よりパシらされていたところを助けてもらった。一声かけただけで俺をパシっていた奴らは恐れおののき、もう二度とそうされることは無くなった。
俺は、臆病だから。何を言われてもただ、頷くしかできなかった。そんな自分を助けてくれる人間なんていないと思っていたのに……まさか、一番怖いと噂されている瞳先輩より手が差し伸べられるとは想像もつかなかった。
根性を叩きなおしてやるって言われてその日――約一年前から一緒に過ごすことが増え、そうしていると、先輩の意外な一面が見え隠れするようになり、気がついたら好きになっていた。
すぐにそれを瞳先輩は察したんだろう。先輩から、苦笑され言われたんだ。
――おっまえ、俺がいないと本当何も出来なさそうだもんなぁ。付き合うか?
あの時は足が宙に浮いたかと思ったなぁ……って、危ない。また思考が別へ飛んでしまった。
瞳先輩が、眉間に深い皺を寄せている。
「友博。今、何考えてた?」
おお。絶対零度の空気が流れ始めた。でもそれすらとても気持ちがよく受け取れる。
こんなに好きになるなんて……本当は、名前だって市川先輩、でなく瞳先輩と下の方を呼びたい。でもそれをしたらば絶対に殴り飛ばされるだろう。噂でそう聞いている。
キスの続きもしたいんだけれど――自分からは中々言い出せなくて、結局、付き合って半年が経過してもまだセックスできていない。
「ともぉ?」
っと、いけない。この呼ばれ方は本当に危険なサイン。
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