就職活動がうまくいかないと悩んでいた君へ、同棲を持ちかけたのは僕だったね。一瞬迷いながらも頷いてくれてすごく嬉しかったよ。あまり喧嘩をしてこなかったけれど、流石にそれから半年は、何度も衝突をしたっけ。何せ、家族以外と初めて一緒に暮らすのだもの。当たり前のことなのだけれど、それでも最初はお互い戸惑ったよね。
徐々に、就職活動をしているという君の帰りが遅くなって。僕も、仕事がどんどん忙しくなって。常に離れたくないからと、わざとこのワンルームマンションを選んだというのに、そこは単なる箱と化していった。
寂しかったよ。君に、なに不自由ないようにと……就職活動に対して力になれない僕としては、せめて生活だけでも不満のないようにと思って、必死で働いて、働いて。早朝手当、残業手当が出るたびに、君へ上がった給与の額を見せて、安心してくれって訴えた。けれど君は……
もう眠らなければ。シャワーを、浴びて。食欲は失せてしまった。
君の、隣で。この狭いベッドで眠って、朝を迎えてもまだ眠り続けているだろう君へ、行って来ますのキスを落として、出勤して。
少し、カーテンを開けてもいいだろうか。尋ねても君は、答えやしないだろうけれど。
……綺麗だ。桜の木が窓の傍にあるって、贅沢だよね。夜の闇に浮かぶ白い花弁は日中見るのと違い、妖艶に目へ映る、な。散ってゆく色が雪のようだ。いいや、雪ではこんなにいやらしく感じることがないか。それとも、窓が開かないようにと内側にはめた格子がそう感じさせてくるのだろうか。
僕は、ね。君とずっと一緒にいたい。君もそう言っていたよね。ねぇ、ねぇ。
起きないの。
起きられないの。それほどに眠たいのかな。
それは、僕のせい、かな。いいや、そんなことはないか。だって昼間にいくらでも寝る時間はあるでしょう?
珍しく、ね。僕の携帯電話へ、君の両親から連絡が入ったよ。もうずっと連絡がつかないって。何を言っているのか意味がわからなかった。
それにしても君、さ。
――人の寝息は、そんなに綺麗なものではないんだよ。
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