重いまぶたを開けば、プレハブ小屋には智泰の姿しかなかった。彼はパイプ椅子の上で長い足を組み、うまそうに煙草をふかしている。

 声を出そうとしたが、枯れ木を引っ?くような音しか出なかった。しかし、智泰はすぐに気づいたようだ。宙に漂わせていた気だるげな視線をこちらに向けてくる。

「正気に戻ったか?」

 無表情で尋ねられ、ゆっくりと身を起こせば、身体のあちこちが悲鳴を上げた。口の中に燻されたような匂いが漂っている。舌がとても熱い。じんじんと、突き刺すような痛みがそこにある。

「水……を」

「あれだけ喘げば喉も嗄れるだろうなぁ。それとも舌が火傷したか?」

 彼の表情へ嘲笑が浮かぶ。

 立ち上がろうとしたが、腰に力が入らない。そのまますとん、とアスファルトが剥き出しにされた床へ座り込んでしまう。

 智泰は煙草を咥えたまま、僕の目の前へと歩いてくる。彼の動作は洗練されていた。誰かから、実家が金持ちだと聞いたことがある。育ちのせいだろうか。

 何故、僕の頭上で、ズボンのファスナーを下げるのだろう。下着とそれの隙間から萎えているペニスを抜き出して、彼は嘲笑を浮かべ続ける。

「上を向いて口を大きく開け。お前にくれてやるよ。俺の、小便」

 大きく見開いたまぶたが痙攣した。歯は、ガチガチと鳴る。

 待ってくれ、やめてくれ。そういう拒絶の声は喉に張り付いて、表へ出てこなかった。せめて目に入らぬようにとまぶたを閉じれば、すぐに生暖かい尿が頭上から降ってくる。

「はは……はははっ。いい様だなぁ、おい」

 全てを出し切ったのだろう。智泰のしゃがむ気配を受けた。閉じていたそこを開けば、じゅぅっと鎮火する音が耳に届く。僕の髪から滴る尿で煙草の火を消し終えると彼は、それを無造作に放り捨てた。


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