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幸せが壊れる時にはいつも血の匂いがした。


「雪が降って危ないから行かなくてもいいんだよ」
「今行かないと薬なくなっちゃうでしょ?それに、帰りはお兄ちゃんと一緒に帰るから」
「えー!お姉ちゃんも町に行くの?」
「ずるいー!」
「ごめんね、帰ったらたくさん遊ぼ!」
「気をつけてねー」
「お姉ちゃん、いってらっしゃい」
「行ってきます!」

兄が山を下りたのは数刻前だ。急ごう。兄と同じく鼻が利く私は、クンクンと兄の匂いを辿り山を下りる。町で薬を買うころには既に日が暮れ始めていた。兄の姿も見当たらない。入れ違いになってしまったのだろうか。

「一露葉ちゃん、今から山に戻るのかい?」
「うん」
「もう暗くなるし女の子一人じゃ危ないから、今日は家に泊まりなさい」
「でも」
「なーに、遠慮は要らないよ。いつも炭治郎に良くして貰ってるんだ」
「お兄ちゃんは?」
「炭治郎なら少し前に帰ったよ」
「今から帰したら俺たちが炭治郎に怒られるからな」
「お兄ちゃんは過保護だからなぁ」
「炭十郎さんが亡くなって余計に心配なんだろう」

おばちゃんの好意に甘え一晩泊めさせてもらった。眠りにつく前に、子どものころお婆ちゃんから聞いた鬼の話が頭を過る。三郎爺ちゃんも話していたな。『日が暮れると人喰い鬼がうろつき出す。昔から鬼狩り様が鬼を斬ってくれるんだ』と。何で急にそんな事を思い出したのかは分からない。だけど、なんだか凄く胸の奥がざわざわしていた。

「気をつけて帰るんだよ」
「うん。おばちゃん、ありがとう」
「炭治郎によろしくね」
「はーい」

花子と茂、怒ってるだろうな。今日は一日中下の子たちと遊んであげよう。皆が好きな煎餅をお母さんと六太と一緒に作って、お兄ちゃんと竹雄が木を切ってくるのを待って、禰豆子の髪を結ってあげよう。喜ぶ家族の顔を思い浮かべながら帰路につく。風に乗り香ってきたのは血の匂い。昨夜の胸のざわつきが的中したのだ。段々と強くなる匂い。真っ白な雪に真っ赤な血が広がっていた。そこに兄と妹の禰豆子の姿はなかった。

なんで、なんでこんなことになったのだろう。熊の匂いはしなかった。じゃあ、何だ。お婆ちゃんが言っていた鬼?人喰い鬼が出た?禰豆子が?否、違う。禰豆子は人間だ。お兄ちゃんと禰豆子の他に別の匂いがある。コイツが家族を惨殺したの。お兄ちゃん達は何処に?

「ハァ、ハァ、爺ちゃん!三郎爺ちゃん!」
「ん?一露葉か。そんな急ぎおってどうした」
「鬼が、鬼が出た!お母さん達が殺された!お兄ちゃんと禰豆子が居ないの!」
「何!?」
「前に言ってたよね?!鬼狩り様が鬼を斬ってくれるって!鬼狩り様は何処にいるの?きっとお兄ちゃん達、鬼を追いかけたのよ!」
「落ち着きなさい。炭治郎は今朝、山に帰った。もう日が出てたから鬼はうろつけん」

溢れ出た涙が落ち着くまで三郎爺ちゃんはずっと優しく背中を撫でてくれた。落ち着いてから一緒に町に向かい居なくなった兄と禰豆子を探したが見つからなかった。家に戻っているかもしれない、と三郎爺ちゃんと男の人数人が竈門家を見に行ってくれたが姿はなかったらしい。

「一露葉ちゃん……」
「大丈夫かい?」
「まさか本当に人喰い鬼がいるなんて」
「あの家には戻れんだろう、儂の家に来るか」
「……ううん、大丈夫」
「あの家に戻るのかい?」
「……戻らない。私、なるよ。鬼狩りに。鬼狩りになって、仇を討つ。さっきは取り乱しちゃったけど、きっとお兄ちゃんも同じだと思う」

またこの町に帰る事を約束し私は鬼狩りになる為、生まれ育ったこの地を後にした。町を移動しながら情報を集めよう。強くなるために。