誰が為に 2/5
「やっぱり近頃私のことを嗅ぎ回っていたのは貴方でしたか、隣国の庭師の成歩堂くん。…いえ、フェニックスとお呼びすべきかな」
「へえ、僕を知ってくれてるとは光栄だ」
まぁ私も一国の執政官ですから、と世間話でもするかのようにのんびりとヤツは微笑んだ。
牙琉霧人。
隣国の執政官であり、王子の世話係を務める男。そして何より、戦争の黒幕である。
「情報は全て掴んでる。王に毒を盛ったのも、国交をあえて悪化させたのもあんただ」
「ええ、認めましょう。君がここまでたどり着いたご褒美です」
「ふざけるな!何が目的だ!」
「何と言われても…。強いて言うなら、つまらなかったからですかね。
王子と姫を結婚させて互いに甘えて恩恵にあやかろうなどと、反吐が出るじゃないですか。
そんなのは私のしたい執政ではないのです。国は獲るか獲られるか。
だから国王には悪いのですが退いていただきました。
あの王子はまだ幼い。まだ私の操る余地はありそうです。その証拠に、ご丁寧に自ら戦場へ出向いてくれましたしね。
戦争で生き残ったとしても王子は私の手の内。
死んでしまったとしたら、まぁそれはそれで仕方ありませんね。
ああ、あなたがたの可愛い姫君は、悲しむかもしれませんが」
楽しそうにチェスのプレイでも解説しているかのように語る牙琉。
最悪なことに、姫のことまでちらつかせて。
思わず僕の右手は、腰に潜ませたピストルへと伸びていた。
「無駄、ですよ」
「黙れ」
「もう戦争は始まっている」
「そいつはどうかな」
怒りは静まらないが、極力声のトーンを抑えて余裕あるように口角を上げてみせた。
諜報員としての僕の武器は、ポーカーフェイスだけだったから。
牙琉は僕の表情を一瞥して、そしていぶかしげに窓の外を確認し、小さく舌打ちをした。
「何故だ…何故、まだ開戦ののろしが挙がっていないのだ」
「こちらの国にも、君に劣らないブレーンが居るってことだよ、牙琉」
僕はすべての真相を紙に記し、それを御剣だけに宛てて報告していた。
国王や将軍連中にそれを報告してもきっと混乱を招いて戦争を激化させるだけだろう。こういうとき、僕の思う限り信頼できるのは御剣だけだ。
その根拠を述べるとすれば。
あいつは、国よりも何よりも、姫のことを想っているから。
その点では僕とまったく同じだったから。だからきっと、何とかしてくれると思うんだ。
こんな無茶苦茶なことを言ったら、あいつも姫も怒るだろうなぁ。
沈黙の中、僕と牙琉は対峙する。
互いに構えたピストルの安全装置を外す。
バァン、
と、沈黙を破ったのは。
部屋のドアを豪快に蹴破る音だった。
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