誰が為に 3/5
「ちょ、あ、あんた何やってんだよ!オレの姫に!!」
間抜けなことに、両軍の前線と前線が対峙したとき、オレの第一声はそれだった。
敵国の大将とおぼしき馬には、あちらの執政官である御剣怜侍とそしてオレの愛しき姫が乗っていたのだ。
必然的に、御剣氏が姫を後ろから抱きこむような形で。
久々に顔を合わせてしかも戦場という状況でしかも彼女は違う男の腕の中でオレのキャパの狭い思考回路は一気にパンクしかけてしまった。
戦線に姫君が姿を現すなどとは誰も想像していなかっただけに、辺りはどよめいた。
敵側の軍さえ混乱している様子だった。
ともあれ姫だけは傷つけるわけに行かず、オレは一先ず軍に待機を命じた。
「姫…姫…!!」
「法介くん…!!」
馬を下りて互いに駆け寄り、抱きしめた。
頬に小さくキス。
ああ、変わらない、首筋の花の香り。
「何、やってるんだ…どうしてこんなところに…!」
違う。会ったときに言おうと思って用意していたのはこんな言葉じゃなかったのに。
「法介くん、だめだよ!交戦してはだめ!こんなところで戦っても何も意味が無いのよ」
そう言われても、ここまで来ては戦いは始まっているに等しかった。
あとはのろしを挙げるだけ。
痛み分けか、もしくは幾分こちらの優勢の状態までもっていき、『侵略』や『国獲り』にはならぬように締結させたいと思っていた。
「王子よ、これを見てくれないか」
御剣氏が、一枚の紙を差し出した。
フェニックスという諜報員の報告だという。フェニックス…その名前くらいは、オレも聞いたことがあった。
その報告書の中には、オレのよく見知った名前がひとつだけ存在していた。
「がりゅう……先生…?」
執政官、牙琉霧人。
その人こそ戦争の黒幕であると。
まさか、とか、嘘だ、という言葉が瞬時によぎっては消えていく。
否定したくてもできなかったのだ。
納得せざるを得ないだけの証拠がその紙には記されていたし、悲しいことに自分にも思い当たるふしがあった。
真っ白になりそうな頭をなんとか動かしてその内容を飲み下す。
「城…だ。城へ、戻らなければ…」
「うん。行こう、一緒に!」
「い!一緒は駄目です!姫は帰って安全なところに居てください!」
「やだ」
「やだじゃない!」
「だって決めたんだもの…わ、私は、あなたたちみたいに戦えない、けど。まもりたいの。側に居て、ちゃんと護りたいのよ」
駄々をこねる子供みたいに彼女はぎゅっと唇を噛み締めて、オレの胸にすがった。
そうやって急に可愛らしいところを見せるのだからずるい。
「姫…聞き分けてはくれませんか…」
ふいに、くつくつくつと頭上から笑い声が降った。馬上からオレ達のやりとりを見ていた御剣氏の笑い声だった。
「王子よ、観念したまえ。私はその姫君の我侭にはもうすっかり降伏したぞ。長年仕えているこの私がだ。
これから夫婦になろうと思うなら、キミも観念せねばな」
重く重くため息を吐いてから肩をすくめて見せると、してやったりとばかりに姫はにんまり笑った。
わかってる。
その笑顔が好きだから、オレはキミには勝てないんだって。
「退陣せよ!」
両軍に向けて、オレと御剣氏の号令が響いた。
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