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 その訃報を知ったのは、一ヶ月の長期任務から帰ってからのことだった。
 仲間たちの雑談の中で誰かが思い出したように言ったのだ。

「クロガネのおやっさん、亡くなったんだって」

 ─ふぅん。
 ─ああ、あの名人が。
 ─それは残念。

 何人かが死を悼む言葉を挙げたが、それはどこか渇いていて社交辞令的なものに聞こえた。
 仕方の無いことだ。
 この世界には死があふれている。
 それでもこの話題が少し特殊であるのは、その"クロガネのおやっさん"なる人物が忍ではなく一般人だという点だ。
 死因は当然戦死などではなく、酒の呑みすぎによる病気の進行だったという。
 仲間の忍の殉職の話題は慣れていたが、一般人のそれが忍たちの口の端に挙がるということは実に稀だった。





 クロガネというのは、忍具を専門に造る鍛冶屋の屋号だ。
 木の葉隠れの里はいくつか鍛冶屋があるが、中でもクロガネは有名だった。
 取り扱いはクナイや手裏剣、小刀などの小物が主で、完全オーダーメイドでその忍にぴったり合った物を造ってく れるという。形状だけでなく品質も良く、純度の高い鉄で仕上げられた忍具は強度もあり、それはつまり殺傷能力の高さにも直結していた。
 難を言えば、クロガネの製品はとにかく料金が高いと評判であること。
 それでも金を出せば手に入るということならば購入したいと考える忍はたくさんいるのだが、そう誰もが簡単に買える訳ではなかった。
 この鍛冶屋の最大の特徴は、顧客紹介制を採っているということだ。
 誰かの紹介があったうえで、親方さんがうんと言わなければ注文することすら叶わない。よほどの手練れの忍の注文しか受けないのだとか。
 今この場には暗部─要するにそれなりに能力を認められている忍ばかりが集まっているわけだが、この中の誰も、自分はクロガネ製の忍具を使っていると声を挙げる者は居なかった。

 オレは、というと。
 自ら注文したことはないが、たった一つだけクロガネ製のクナイを所持していた。
 師匠にプレゼントされたものだ。
 そういえばあの人もクロガネ製品を愛用し、クロガネの親方を絶賛していた。
 師匠が慕った人だと思うと、その死は少なからず他人事やよくあることと片付けるには忍びなかった。

「葬儀は?」

 オレがそう訊くと、もうこの話題は終わったと思っていたらしいそいつは「え?」と小さく声を挙げた。
 それから、あぁ、とオレの意を察して頷く。

「二週間前に済んでるよ。俺、任務で参列できないっていう先輩の代理で香典を持って行ったんだが、随分と忍の参列者が多かった」

「そう。店は弟子が継ぐのかな」

「さぁ…?そもそも弟子なんているの?」

「オレの記憶では」

「それらしき人物は葬儀では見なかったけどなぁ。喪主も親族の若い女だったし」

 それっきり、今度こそこの話題は終結してしまった。





式日