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 突然、意識を呼び戻された。
 あれ?
 私はなにをしていた?
 眠っていた?
 おかしなことに、眼前にはカカシの厳しい表情がある。
 身体がふわふわと揺れ、風が頬を撫でた。その触れた外気がびっくりするほど心地好い。

「......、」

 涼しい、と呟いたつもりが、ほとんど声にならなかった。
 ひどく喉が渇いている。
 思考を巡らせることが困難なくらい、とてつもない倦怠感が身体を支配しているのだけはよくわかった。
 意識を保っていることも、ままならないほどに。
 私はもう一度目を閉じた。




 次に目を覚ますとがらんとした味気ない部屋に居た。これは誰がどう見ても病室だ。覚束ない頭でもそのくらいの判断はつく。
 私は白いベッドの上に横たわっており、窓辺に視線をやると、カカシが立っている。やはり途切れ途切れの意識の中で見たのと同じ、厳しい表情だった。
 彼は顔のほとんどを隠しているから本当は表情の違いなんて見付けられないはずなのに、何故だかそう見えた。

「私、どうしたんだろう」

 ああ、掠れてはいるけれど今度は声が出る。
 腕に鈍い痛みと違和感を感じて、点滴が繋がれていることにやっと気付く。
 カカシは溜め息を漏らし、何か言葉を探すようにしばらく押し黙ったかと思うと、「熱中症だ」と端的に吐き捨てるように言った。
 なるほど。
 その一言で意識を失っていた間の経緯を理解した。
 どうやら作業中に熱中症で倒れ、それを発見した彼が私をここまで担いで来たらしい。 とんでもない迷惑を掛けてしまった。

「カカシ、ありがと...」

「......」

 返事はない。
 腕組みをしたまま窓辺にもたれ、じっと睨むように私を見据えていた。
 彼の後ろに見えている空は夕暮れで、もう薄闇が迫ってきていた。
 カカシに抱えられて宙を舞っていたあの瞬間は確か、背景に青空が見えていたような気がする。
 つまり、私が今目を覚ますまで少なくとも数時間は経過しているということだ。
 カカシは、ずっとこうして側に居たのだろうか。

「怒って、るの?」

「違うよ」

 恐る恐る訊けば、今度は意外やすんなりと否定が返って来た。
 少しホッとして、その瞬間私はカカシに早く伝えなければいけないことがあることを思い出した。
 そうだ。
 早く帰ろう。帰らなきゃ。

「あのさ、帰ってすぐ見せたいものが」

「今日は帰れません入院ですバーーーカ」

 !!

「...やっぱ、怒ってる」

 声を荒げるでもなく淡々とそういい放つところに、静かな怒りを感じた。
 それは至極当然のことだろう。迷惑も心配も掛け、こうして何時間も拘束してしまっている。
 頼んだわけでもないのに、居てくれた。
 本当だったら怒鳴り付けられていたっていいはずだ。

「いーから寝てなさい」

 ふ、と次に降ってきたその声が先程の淡々とした声と違ってやわらかで、くすぐられるように胸がざわつく。
 この人は時々、今みたいに切ないくらいやさしくなる。
 やさしさに、甘えてしまいたくなる。

「たっぷり休んで元気になったところで明日以降たっぷりお説教してあげるから。で、おまえの話はその後聞くから」

 じゃーね、と踵を返したところで、思わず呼び止めていた。
 去り際の彼を呼び止めるのはこれで二度目だ、と思考の遠くの方でぼんやりと思った。

「明日、会えるの?時間ある?できたらすぐがいい、すぐ会いたい」

 早口に捲し立てた私に、カカシが面食らったように胸を少し反らせた。
 自分でも少し驚いた。
 会いたい、なんて、誰かに向かって言ったことがあっただろうか。
 そんな言葉が自分の口から発せられるなんて、と。
 でも、カカシは嫌だと言わないだろうという漠然とした確信が、何故だかあって。

「...ちゃんと元気になったら、って言ってるでしょ」

「うん...じゃあ、きっと明日」

 絶対、明日。
 だって彼にはすぐにでも見せたかったんだ。
 やっとできた、私の完成品。



式日