05 (4/4)
─ピィー...ヒョロロロ...
ちょうどサキホがアスマの身体データと注文仕様書をかりかりと書き留め終える頃、それは聞こえてきた。
伝令の鳶の鳴き声だ。
アスマとオレは同時に窓の外を見て鳶を確認した。
脚に黄色の紐をくくりつけており、鳴き声は三つ。
チ、と舌打ちしながらアスマは再び煙草に火を点けた。
「俺かよ」
「あぁ、任務だな」
鳶の脚に着けた紐の色と鳴き声の回数は召集する対象を示している。それらでどの部隊の何班が召集なのか分かるようになっているのだ。
今回のものと暗部対象のそれは違った。つまり召集がかけられたのはアスマのほうだった。
「...じゃあ宜しく頼むぜ、二代目さんよ」
「あっ、ハイ。納期は二週間後で大丈夫ですか?」
「あぁ構わない。その頃また来る」
彼が瞬身で消えたことに驚いて、サキホはわっと小さく声を上げた。
そういう何気ない反応なんかは、ごく普通の女の子、だと思った。
少なくとも自分の周りにいるくの一にはまず見られない反応だし、そのせいか新鮮に感じる。
あえて違う言葉で言い替えるならば...可愛い、と。そういう風に表現すればいいのか。
あくまで、自分の周りのくの一との対比でそう感じられるというだけではあるが。
そこまで考えが及ぶと、自然と先程まで繰り広げられていたシーンが浮かんで妙に苦い気持ちになった。
「あのさサキホ、さっきの、採寸だけど」
「うん、アスマさんて身体大きいから一苦労だね」
あはは、と軽く苦笑い。
「そうじゃなくて」
「?」
「ああいうの、危ないから」
きょとん、と小首を傾げる。
危ない、の意味をまったく解していないらしい。
「男は勘違いするっての」
はっきり言った方が世間知らずで無防備な彼女のためだろうと思った。
オレが友人として信頼しているアスマはともかくとして、だ。
この先、客が増えていけば、いつかどこかでそういう気を起こす輩も出てくるかも知れない。
いつだってオレがくっついているという訳でもないのに、あまりに危なっかしい。
万が一そうなった時。相手は忍だ。身動きを封じられ組伏せられることなど造作もないだろう。
「かんちがい...」
「そ。身体べたべた触ったり、腰に手ぇ回したり。データとして必要なのはわかるけど、もちょっとやり方考えなさいよ」
サキホは神妙に腕組みをしてうーんと唸ると恐る恐るオレの顔を伺った。
「カカシは、嫌なの?」
「っ......、は?」
それはどっちの意味だ。
どっちの意味で訊いてるんだ。
『カカシは私に触られるの嫌なの?』と言いたいのか、『カカシは私が他の男を触るのが嫌なの?』と言いたいのか。
どっちにしろ、論外だ。
嫌とかそういう話では無いのだ。
オレの忠告を、彼女はまったく意に介して無い。
嗚呼、ちょっと待てよ。待て待て。
何でオレは動揺してる?
上目遣いをやめてくれ。
「さ...触られるのが嫌な奴も、居るかも、ってこと」
彼女の問いもトンチンカンなら、オレの答えもトンチンカンだった。
けれどもとりあえず、ああ成る程、と彼女はそれで納得したようで。
「そういえばまだカカシの採寸してない」
「......」
確かにしていない。
最後の試作品であるクナイを貰いはしたが、あれは通常規格サイズで造ったもので、オーダーメイドではなかった。しかし品物には満足しているので、オレとしてはそれで構わない。
そんなことより、今の流れでそれを言うのか。
いざ採寸、とまた目の色が変わってしまうのだろうかとオレは思わず身構えた。
「まーカカシのデータは必要無いけど」
...!?
「え、なに、何でよ...」
思わず声が上擦ってしまう。
確かにオレは武器攻撃中心の戦闘スタイルではないから、この先も特殊な忍具の発注をすることはほぼ無いだろう。
それにアスマほどマメに忍具の手入れをしているわけでもない。彼女にしてみればそれ程上客といえないのは事実だ。
だからってカカシのデータは要らない、ってのは、この半年間誠意を以て研鑽に付き合ってきたオレに対して、あんまりではないのか。
そんな思いをめぐらせてたじろいでいると、だってさあ、と少し面白くなさげに彼女は唇を尖らせて言った。
「半年もずうっと見てたら、測らなくたってわかるもの。あのクナイだってカカシ仕様で仕上げたし...」
「...え?」
「...気付いてないの?」
だって。
あのクナイには違和感が、無さすぎて。
うん?
ああ。
そういうことか?
それは余りに手にフィットし過ぎて、自分の身体の一部のようで。
だから違和感なんてあるわけが無い、と。
オレのサイズ感で彼女が造ってくれた物だから。
「おまえって...」
凄いね、と言おうとして、でも何となく悔しさが勝って言葉を飲み込んでしまった。
それに、結局のところ採寸をしてもらえないという事に若干の寂しさもあり複雑な心境であった。
第五話 了
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